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会見
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仕される値打ちには金額のつけようがない。
 ラインハルトとしては一応自分がヤンを招待し、もてなす側だと自覚しているから特別なことをしているとは思っていないのだが。
「卿は酒は常に飲むのか?」
 ヤンには遠慮なく飲むようにと言いはしたが、自分がまったく口をつけなければ飲めないだろうと察したラインハルトもグラスを傾ける。
「そうですね。よく飲む、と言われます。自分では普通だと思っているのですが」
「卿は確か、まだ独身だったな」
「はい、まだ独身です」
 ヤンは苦笑いと共に答えた。
 フレデリカ・グリーンヒルにプロポーズを行い、承諾の返事は貰っているものの、正式に婚約したと公言してもいいものだろうか。どちらの両親もすでに亡くなっているし、成人しているのだから、婚姻は双方の同意によって成立する。
「そうか、なら卿にも身の回りの世話をする者がいるのか?」
 その言葉にヤンは先ほどコーヒーを運んできた幼年学校の生徒を思い浮かべた。
「特にそのような者はおりません」
 コーヒーも紅茶も飲みたい者、手の空いた者が入れればよいし、艦内の食堂には調理や配膳専門の人間が配置されているが、ヤンの専属ではない。
「ではいったい誰が卿の酒の量を知っているのだ。まさか毎日の飲酒量の報告が義務づけられているわけではあるまい」
 これが冗談ではないのがラインハルトである。またヤンもそれに几帳面に答えた。
「それは私の被保護者が……ああ、トラバース法というものがあって、我が家には少年が同居していて、彼が私の酒の量が多いと表まで作って忠告をしてくるのです」
「トラバース法……知らない法だが、どのようなものなのか?」
 そうラインハルトに言われ、ヤンは簡単に説明した。キャゼルヌに何となく言いくるめられて、気がついた時にはドアの外にトランクを持ったユリアンが立っていたことは省いて。
「なるほど。戦争が長引けば孤児は増えるばかりだ。それは我が帝国でも同じ事。孤児の為の施設を増やすよりも即効性はある。人員確保も大切だろう。だが保護者となるのが立派な人間ばかりだとは限らないのではないか?」
「ええ、私のような反面教師がいたり───」
 慌ててヤンは言葉を切った。ラインハルトが至極真剣な表情をしていたからだ。
「いえ……その、保護者はしかるべき機関が厳選しますから」
「なるほど、そのしかるべき機関とやらは絶対だと卿は思っているのか」
「絶対とは思いませんが、まずは信頼しなければ医者にもかかることができません」
 ヤン宅におけるユリアンを知らぬ者がみれば、虐待とまでは言わないにしても、青少年の育成に問題がある、被保護者は家政婦ではない、と忠告するに違いない。
 だがヤンが指示したわけでもないのにユリアンは今の状況に自らを置き、それを楽しんでいる風でもあった。軍
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