会見
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といって調子に乗って飲んでいては早く酔いが回ってしまう。迎えが来た時に酩酊状態では格好が悪い。
そう思ったヤンは何か酒の肴はないか、と冷蔵庫を物色しようと立ち上がった時
「失礼します」
という声と同時にドアが開いた。
「は、はいっ」
入ってきたのはヤンが見知っている数少ない人物の一人、ミュラーだった。
「お酒を召し上がっておいででしたか」
その言葉にはっとして振り返る。
テーブルの上にはグラスとミニボトルが置いてあり、それ以外の状況は考えられない。
「え、ええ……手持ち無沙汰だったものですから」
言いながらもう少し巧い言い方はないものか、とヤンは苦笑した。まったくの嘘ではないのだが、手持ち無沙汰だからといって酒を飲むとは無職のアル中患者じゃあるまいし、いや、もうすぐ無職にはなるのだが、と心中でヤンが唱えている間、ミュラーは別のことを考えいた。
もし逆の立場で、自分が敵艦に足止めされたら置いてある酒を何の疑いもなく飲めるだろうか。
不安を酒でごまかすことはあるかも知れないが、ヤンの飲酒はそれとは違う。グラスと氷を使っているのが、酔う為ではなく味わっていた証しだ。
「シャトルの修理にはもうしばらくかかるそうです」
「そうですか。それはわざわざどうも」
ヤンの方が恐縮して頭を下げると、ミュラーは一瞬苦笑いのような表情を浮かべ、すぐにそれを引き締めた。
「もしよろしければローエングラム公がもう少しお話をしたいと言われています」
それからもう一歩近寄って、ヤンに耳打ちした。
「非公式に、極めて個人的にお会いしたい、と」
つい先ほど歩いた廊下を、再びミュラーに誘導されて歩くのはいささか妙な気分だった。
大きく違うのは、途中までは人目に付かない通路を使い、他の帝国軍人の姿を目にしなかったことである。好奇に満ちた視線に晒されることは、同盟軍の一軍人であり続けようとしたヤンにはそう何度も経験したいものではなかった。
もちろんミュラーがそんなヤンの心理を察して選んだ通路ではなく、ごくごく単純な理由、秘密裏に事を運ぶ為だったのだが。
「どうも……」
再びラインハルトの私室に通されたヤンは、困惑している様子を隠す努力もせず、ベレーの下の髪の毛をくしゃりと掻き回した。
「またお会いできて光栄です」
椅子に掛けたままにこりともしないラインハルトにそう付け加える。
「卿も掛けたらどうだ」
「はい、では失礼します」
向かい合う形でソファに腰掛けたものの、どうにも格好がつかない。これは先ほどもそうだったのだが、ラインハルトはゆったりと背もたれに体重を預けてくつろいだ態勢なのと比べ、ヤンは校長室に呼び出された生徒のように浅く腰掛け、油断をすると背筋が丸くなってしまうのでしょっちゅう意識して背中
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