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ソードアート・オンライン 穹色の風
アインクラッド 後編
圏内事件
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じめ発動させていた《隠蔽(ハイディング)》のおかげで見つかることはなかった。
 前のめりで鉄柵に身体を預け、眼下に広がる星のない夜空を覗き込む。気温は穏やかだが、時折強く吹き上げていく風のせいで若干肌寒い。半ば無意識的に首をすぼめたマサキの前に、どこまでも透明な暗闇が穏やかな微笑を湛えて口を開けている。そうして、寄ってきたものを優しく包み込んで、そのまま綺麗に砕いて呑み込んでしまうのだ。まるで、汚れを浄化する仄暗い深海のように。
 それを眺めていると、もう、このまま終わらせてしまえばいいのではと思えてくる。今からここに飛び込んで、終わらせる。そうすれば、自分の全てが元に戻る。……似たようなことを、この場所で誰かさんから聞いたかな、とマサキは苦笑した。そんな記憶も、全てなかったことにしてしまえばいい。忘れることが不可能だとしても、思い出さないようにすることは不可能ではないだろうから。そもそも自分がここにいるべき理由など、何一つありはしないのだから……。

「……マサキ君? どうしたの?」

 茫漠(ぼうばく)とした夜の帳に沈んでいく思考を突如切り裂いて響いたのは、またしてもエミのソプラノだった。マサキもこれには驚いて、振り向きざまに声を漏らす。

「……それはこっちの台詞だ。何故、こんな場所に」
「それは……マサキ君がわざわざハイディングまでしてこっちに行くのが見えたから、どうしたのかなって思って」

「ごめんね?」と、エミは悪戯を指摘された子供のように笑う。そしてそのままマサキの隣まで歩いてくると、興味深そうに辺りを見回した。

「この場所、好きなの?」
「別に」

 しかめっ面で即答。どちらかと言えば、嫌いな部類に入るだろう。

「えー? ヘンなの」

 お前に言われたくはない……と言い掛けて、その言葉を飲み込む。一体何がそんなに可笑しいのか、彼女は一人でひとしきり笑うと、愛らしい口元をきゅっと引き締めた。

「……グリムロックさんは、やっぱり何か知ってるのかな」

 温度が低くなった彼女の声は、何かを恐れるような不安を孕んでいるように聞こえた。相手はPKに――もしかすると、積極的に――関与したかも知れない人物である以上、そういう人種に耐性のない者がそう思うのも当然だろう。

「……さあな。案外……」

 そう言いかけて、口をつぐんだ。「いい奴なのかも知れん」とでも言うつもりなのだろうか? 我ながら酷い嘘だ。仮に知らなかったとしても、知らずにあんな槍を鍛える人間と親密になれるとは思えない。自分自身どうして嘘をついているのか理解出来ていないから、こうも嘘が下手糞になる。

「……そっか。そうだよね……」

 だが、彼女はその言葉を受け入れて、薄く微笑んだ。もう、全部バレてしまっているのかもし
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