暁 〜小説投稿サイト〜
ストライク・ザ・ブラッド 〜神なる名を持つ吸血鬼〜
追憶の惨劇と契り篇
46.無力なる神意
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レベーターホールまでは、アレイストがついてきてくれたがやはり彼もまだやることがあるようだった。
 密閉された個室の端にもたれかかりながら彩斗は今日あった出来事について改めて考える。
 現実離れした出来事に未だ彩斗は信じられていない。しかしこれは紛れも無い現実なのだ。背中にはまだズキズキという火傷の痛みが残っている。
 そういえば、あの少女はどうなったのだろうか。柚木と一緒にこの病院に運ばれたのだろうか。それでもあそこで海原の暴走が止まったなら彼女も助かったはずだ。
 チーン、というエレベーター特有の音が響いた。扉が開く前に松葉杖をぎこちなくつきながらそこまで移動する。無駄にゆっくり開かれる扉に若干イライラしながらもエレベーターから出る。
 するとだだっ広いエントランスが視界に入る。そこでようやく彩斗は自分がどこにいたのかを理解することができた。ここはこの街で一番大きい総合病院だ。
 なぜこんな場所に真祖殺しの吸血鬼たちが集まっているのだろうか。
 疑問は募っていくばかりで解けることはない。

「……はぁ」

 深いため息をついて病院のエントランスから出入り口へと向かう。自動ドアが無機質な音を立ててスーッと開いた。後方から「お大事に」という受付女性の声が聞こえてくる。少し振り返って苦笑いを浮かべる。
 正直、背中に大火傷を負っている人間が半日も経たずに帰るなんてどうかしている。さらに深夜ということもあり、なおさら問題だらけだ。
 ぎこちない三本目の足を地面につきながらゆっくりと進んでいくと暗闇の中に一人の人影を捉える。
 髪をサイドで縛っており、紺色のブレザーの上にベージュの大きめのダッフルコートを着て、首には真っ赤なマフラーを巻いている。

「帰ったんじゃなかったのか?」

「うん。帰ろうと思ったけど……その……」

 柚木が口ごもる。何かを言いたげにもごもごしている。

「ごめん!」

 柚木は深く腰から曲げて謝ってくる。予想していなかった柚木の行動に彩斗が反応したのは少し経ってからだった。

「いや、別に気にしてねぇよ」

 多分、先ほどのことを謝ったのだろうが彼女が言っていることは何も間違っていない。むしろそちらが正しい。何も知らない人間が突然首を突っ込んでヒーロー気取りをしていたら誰だって腹が立つものだ。

「それよりもお前はもう大丈夫なのか?」

「う、うん。私はあのぐらいなら平気」

 あのぐらいなら……か。
 複雑な気持ちになりながらも彩斗は帰路に着こうとすると並走して柚木も歩みを始める。
 話すこともない居心地の悪い空気だけが辺りを包んでいる。それを見計らっていたかのように風が草木を揺らした。

「……寒ぅ」

 冬に近づいてきたということで風が肌を刺すように冷た
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