意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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スに、ミューモット。後方からベリルが追って来ているかもしれない。もしかしたらもう合流しているかも。いいや、本当は勝とうが負けようがどうだっていい。自分だけでも生き残れればいい――自分さえ良ければいい――。
不意に前方が活気付いた。やはり状況はわからない。それでも明るい狂乱が確かに波及してきた。
気付けば敵の弓射部隊が沈黙していた。
「『エシカの党』だ!」
兵士たちの伝言が前方から伝わってきた。
「ペニェフの義勇軍だ! 『エシカの党』が動いたぞ! 助かったんだ!」
隊列が乱れた。助かった。その一言で自制の振り切れた市民達が、統率を失いてんでに走り出したのだ。何の事はない、皆考える事は同じだった。自分だけでも助かりたいと。
後ろから押され、転ばされそうになりながら、ラプサーラも小高い丘を駆け上がり、逃げ惑った。すぐ近くに投石器の石が着弾し、土の柱を打ち立てる。その土を頭から浴びようが、口の中が土まみれになろうが、関係なかった。
道を守れ! 兵士達が叫ぶ。小高い丘。地平線。
その先に壁が見えてきた。
夢に見た新シュトラトの市壁だった。
生存へ続く確かな一本道が見えた。投石と、抉れた大地と、踏みにじられた草と、転がる骸の道が。
顔に異和感を受けた。魔力の疼きだ。汗で洗い落とされたベリルの血。それによって描かれた模様が激しく熱を放つ。
丘の上で振り返った。
ベリルが見えた。白い長い髪。若草色のマント。彼はただ一人の護衛もつけず丘陵に立っていた。
緑の界の圧力とベリルの殺意が額を圧迫する。彼の周りにはセルセト兵達が倒れている。
護衛たちは皆、魔術師を守り死んだのだ。
ベリルは遠くの敵に集中するあまり、自分のおかれた状況に気付いていないように見えた。
「ベリル」
彼の後ろの草の道を、グロズナ兵が上ってくる。
ラプサーラは声を上げる。ベリル! 渇いた喉は裂けて血が出そうだった。ベリル! 逃げて、と叫んだ。声は、大地の底の夏の澱を僅かにかき混ぜただけであった。ベリル!
グロズナ兵が五、六人、魔術師の背後に迫る。
ラプサーラは白く光る剣がベリルの背に突き立てられ、彼がよろめくのを見た。魔力も殺意も消えて、額が軽くなる。
二人、三人と、ベリルに斬りかかった。ベリルは草の上に両膝をつき、ゆっくりと倒れ伏した。白髪が赤く染まっていく。
ラプサーラは待った。奇跡を信じた。緑の界の力が、慈悲の神マールの力が、ベリル自身の魔術の才覚が、彼を救う事を信じた。
グロズナ兵達は何度もベリルの背に剣を突き立てた。何度も。ベリルは無抵抗だ。グロズナ達は魔術への恐怖ゆえ執拗に攻撃を加え続けた。ベリルはまだ動かない。逃げも戦いもしない。
もうそんな事をする必要はないと、グロズナ兵に知らしめているのだ。自らの
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