コヨミフェイル
015
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心渡』が痺れるほどの衝撃を手に残して消えた。いや、弾かれていた――弾かれた『心渡』が壁に当たって、甲高い音を立てながら地面に落ちて、初めて弾かれたことに気付いた。
『心渡』の軌道上に火憐の掌底があった。
太刀を横から掌底で弾いたのだ。手が握れないほどに痺れていることが、どれほどの力で『心渡』を弾いたのかを物語っていた。
まるで今朝の再現のようであるが、弾いた物が僕の腕ではなく、一つ間違えればただでは済まない妖刀であることは大いに違っている。
他に言えば、場所と火憐の表情ぐらいか。
「くそっ」
さらに踏み込んでやけくそで痺れる手で拳を放った。
そんな拳が届くはずもなく、簡単に手首を掴まれた。
そして、火憐は掴んだまま僕を巻き込むように右足を軸に、上から見て反時計周りに体を回転させた。その力が尋常ではなく、思わず無防備にも前のめりになった。その前のめりになってあらわになった僕のうなじに僕の腕を掴んでいる手と逆の腕の肘が回転運動による遠心力とともに打ち込まれた。
というか、タイ式ボクシング、ムエタイの技だった。
お前の通ってる道場はどうなってんだ、と思う間もなく、それ単体で凶器たり得る肘に回転によって加えられた遠心力で頸骨はいとも簡単に砕かれ、意識を断絶された。
「かはっ」
意識を取り戻した瞬間、意識を失っていた間に取り込めなかった酸素を取り戻すように限界まで空気を吸い込んだ。
「なんだ?」
息が整ったところで、自分が何故床に仰向けになって倒れているのかわからないことに気付いた。
「立つのじゃ、お前様よ」
手をついて四つん這いの恰好で見上げると、数歩前に立ちはだかるように立つ忍の背中が見えた。手には『心渡』が握られていて、背丈も随分と高かった。見回してここが叡考塾の一室であることは容易にわかった。
だが、状況が把握できない。何かただ事ではない事態であったことは覚えている。しかし、それはあまりにも漠然としていて判然としなかった。頭からすっぽりと記憶が抜け落ちたような感じだった。
「何をボーッとしておる。早く立たぬか。これだから馬鹿は好かん」
忍に言われて訳もわからないまま立ち上がると、忍で見えなかった忍と対峙していた者が見えた。
「か、火憐…………?」
何故火憐が忍と向かい合っている?
いや、まず何故こんなところにいるんだ?
それに何故忍が成長している?
疑問なんてあげればきりがなかったが、全て火憐の顔を見れば解消された。
火憐が何故無表情であるかということから火憐が黄泉蛙に憑かれていることを思い出し、さらにそのことからここにいる理由も神原が深手を負ったことも火憐の正義が汚されたことも芋づる式に思い出した。
そして、そのこと全てに底知れない怒りを抱いていたことも。
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