意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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驚いた事に食糧が配られた。
「お肉だよ! お肉だよ!」
少女のような魔術師のドミネが、歌うように兵士に話しかけている。
「グロズナの連中から奪ったんだ。武器もあるよ!」
肉の薫製はラプサーラのもとにも回ってきた。武器は回ってこなかった。残念な事に。ラプサーラはのろのろと手を動かして、油紙に包まれた肉を受け取りはしたものの、包み紙をむいて口に運ぶ力は沸いてこなかった。
呆然と座りこんでいると、誰かが肩を揺すった。
「食え」
ミューモットだった。
「食え!」
ラプサーラは顔を背けたが、ミューモットは顎に手をかけて、強引に顔を上げさせた。
「いらない」
辛うじて答えた。
「行くなら、みんなで先に行って」
口を開けさせられた。ミューモットが腰袋から出した油紙を開き、擂り潰した木の実をラプサーラの舌に乗せる。それを葡萄酒で強引に飲みこませた。ラプサーラはされるがままだ。
「星占で何を見た」
辺りを憚り、ミューモットは低い声で話す。
「相が迫ってくると言ったな、全て消えていくと。それはどういう事だ。何が起きる」
「知らないわ」
みんな死ぬのだ。早いか遅いか、それだけ。
「星占のさなかの言葉は神の言葉よ。私が頭で考えた言葉じゃない。だから意味は知らない」
ミューモットは溜め息をついた。
「どうして私に構うの?」
二の腕を強い力で掴まれ、立ち上がらされた。ミューモットはラプサーラを自分の馬の所に連れて行き、ラプサーラを鞍にあげた。彼は手綱を引いて歩く。
「どうして?」
行軍が再開する。伝令が二人の横を走って行く。
ミューモットが下りるよう命じた。彼は馬の鞍に乗り、何も言わずに走らせる。すぐに姿が見えなくなった。
貝の笛が鳴らされた。民間人を集合させる合図だ。ラプサーラは路傍に蹲り、膝を抱えた。セルセト兵達は体力を失った民間人に構う余裕を失ったか、本当にラプサーラの姿が見えていないか、誰も声をかけようとしない。
「――でも、見ろよ。セルセト人だぞ」
誰かの声が聞こえた。兵士らが話し合っている。一人が歩み寄って来て、ラプサーラを肩に担ぎあげた。そういう事だ。セルセト人だから助けられる。
鬨の声が聞こえた。その響きで、もうすぐ森が終わるのだとわかった。
「グロズナの奴ら、こんな所にまで」
窪地に集められた民間人たちの中に、ラプサーラは連れて行かれ、下ろされた。誰かが言葉を続けた。
「これじゃ、新シュトラトはもう……」
その時、消えたと思っていた涙が、どうしてだか蘇り、頬を伝った。感じる事が出来ないだけで、恐怖も、心も、まだ重い体のどこかにあるらしかった。
剣の音は森の中にまで聞こえてきた。
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