意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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この時、この場所で、確かに希望だった。
太陽が角度を変え、夜を焼き尽くした。
市民達は動いた。食糧を探した。隠し通路があるはずだという、出所のない話を共有し、それを探した。全員が地下で、厨房で、暖炉で、昔、時の権力者が市民を見捨てて逃げるのに使ったという、今でもあるかわからない、隠し通路を探した。
なんとしても生き延びるんだ。
静けさは破られ、希望は消えた。
カルプセスを出て六日目の昼、新シュトラトへ向かう特務治安部隊は、森の中で武装勢力による襲撃を受けた。あのおぞましい罠の平原を抜ければグロズナの手は及ばぬというデルレイの見立てにすがりついていたラプサーラは、すっかり嫌になってしまい、生きる気力を失った。民間人達は後方に移された。武装集団は正規のグロズナ軍ではない、弱小の民兵団の、とりわけ若い一団だった。血にはやり分別を失ったのだろう。あっと言う間に撃破され、倒れたグロズナの若者達の間を、ラプサーラは歩いた。
死体が怖いとも、臭いとも、不快だとさえ思わない。後続の人が隊旗を見て、リセラを包囲していた攻撃部隊の物だと言った。
リセラは陥落したのだろう。ならば、リセラより南のカルプセスにはもはや希望はない。仮に持ちこたえているとしても、完全に退路を失った。
あるいはリセラを攻め落としたグロズナ達は、この行軍を追うかもしれない。
だとしたら何だ?
連中がカルプセスに行くにしろこちらに来るにしろ、どんな害が自分に及ぶ? 何を失うものがある?
死が少し、怖い。それだけだ。
隣の男が喋っている。喋っているのはわかるのに、何を言っているかわからない。ラプサーラは男を見た。男はラプサーラに話しかけていたのだが、目が合うと硬直し、見てはいけないものを見たとばかりに、慌てて目をそらす。
私がどんな目をしているというの。
鈍磨した心で、ラプサーラは惰性で歩く。
ベリルはどうなるだろう。ふと思い、しかしそっと思いに蓋をする。心配などしたくなかった。気にかけたりなどしたら、彼が失われた時、とてもじゃないが耐えられない。
知った事ではない。誰が死のうと私には関係ない。知らない。知りたくない。
そう思い、そう振る舞うしかなかった。
この森を抜ければ、新シュトラトはすぐだ。
六日目の夜には本格的な戦闘が始まる。痩せてしまった男達の叫びが、肉厚な闇の壁に刺さる。兵士達に守られて膝を抱えるラプサーラは、自殺用のナイフが欲しいと願っている。セルセト兵達はそれを持っているのに、民間人に配ってくれないなんて、冷たい人達だ。
皆が皆、深い闇に抱かれ黙っている。敵に見つかりたくないからではない。死にたくないからではない。見つかっても殺されても、受け入れるしかないからだ。
それでも夜は明けて、兵士達が活気づく。
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