意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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んだ。子供だって殺さなきゃならないんだ。むしろ子供だから、殺さなきゃならなかった。子供を見逃すと将来の禍根となる。純粋であればあるほど大きな未来の脅威に。大人はもっと直接的な脅威だ。人質のグロズナ達を生かしておけば、グロズナ軍によって解放された後、剣をとりそれをペニェフに向ける。そうしないと、同胞の兵士に殺されるから。
彼らはグロズナだから死ななければならなかった。
俺たちも同じだよ、チビちゃん。あんたがペニェフだから、俺がセルセト人だから、殺されようとしていると同じなんだ。殺したいから殺すんじゃねえ、殺さないと殺されるんだ。誰だってそうなんだよ。
ペシュミンは市庁舎の奥で、ナザエに抱かれて目を開けている。目の奥で、たった一つの事だけ考えている。
花を探さないと。
自分と、母と、ミハルと、ミハルの伯父のために。
夜明け、リデルの鏃の残党のもとに出向いていた使者が戻ってきた。ミューモットに起こされて、ラプサーラは行軍に加わる。最前列の、いつもラプサーラの前にいたベリルの姿が今日は見当たらなかった。
「ベリルは?」
馬上のミューモットに尋ねる。
「お前の読みが当たったんだ。リデルの鏃の連中は人質交換を持ちかけてきた。交渉に応じると見せかけた囮部隊を時間稼ぎのために残している。奴はそこにいる」
ラプサーラはうなだれる。
もうどうだってよかった。不安にもならなければ、涙も出なかった。流れる汗が顔に残されたベリルの血と混ざりあい、首筋に伝い落ちて服を染める。
泣いたら駄目だと昨日言ってくれた兵士の姿も見えなかった。彼もベリルと共に残ったのだろう。
アーヴ。
名前など知らずにいればよかったと、少し思った。
ペニェフの男達が町を出てから、奇跡のような六日目の朝がカルプセスに訪れた。
消え残る夜の中で、兵士達は髭を剃り、互いの髪を切りあう。垢で汚れ、汗で臭い、互いの顔を見合っては自分も同じ状態であると悟り、恥じるように笑いあう。
木兵達は切り落とした足で矢を作っている。立てなくなった木兵は、右目から蜂の頭を覗かせて、しきりに首を傾げさせ、また目の奥に戻った。一体の木兵が腕で這い、仲間の前に身を投げた。仲間達は斧でその木兵を叩き割り、また矢を作る。住処を失った蜂が、さまようように仲間達の上を飛んだ。蜂は窓から出ていった。グロズナの攻撃はやんでいた。
薄明の光の中、なんて静かなのだろう。なんて静かなのだろう。
陥落が時間の問題である事に変わりはなかった。
朝は事態を変えはしない。
誰も救わない。
死の旅に向けて身繕いする兵士達も、隅の方で目を開けている市民達も、張りつめた静けさと希望を共有していた。
静けさは希望だった。
それがじき破られるとしても、それが何も変えないとしても、今
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