意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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」
「何が?」
「何もかも全てが」
呼吸が早く浅くなっていく。
「人が、世界が、消えていく――」
確信を得る。
「滅びはすぐ」
確信の根拠を探る。
「この収相へと――相が迫ってくる――」
集中力が切れた。全身の力が抜け、ミューモットに寄り掛かる。
「それだけじゃないだろう。他に何が見えた?」
ミューモットが支えながら聞いた。
「見えない」
瞼の闇の中で、ラプサーラは答える。
「未来が見えない」
ラプサーラは自分が座っているのか、寝かされているのか、喋っているのか、喋っていないのか、一切の感覚が曖昧模糊となり、もう全くわからない。
「私には見えない――」
気を失った。
※
ラプサーラは気妙な気配で目を覚ました。何かが顔を撫でている。目を開けると、カンテラの火に照らされるベリルの真剣な顔が間近にあった。
「動くなよ」
ベリルは囁く。彼はラプサーラの顔から指を離した。指先からは血が出ていた。その血で模様を描くように、ラプサーラの顔をなぞる。しばらくその作業を続けてから、一息つき、指先を舐めた。
「あんたに目印を付けたんだ」
ラプサーラは無言のままベリルを見つめた。
「洗い落としても消えない。これであんたに何かあった場合、俺にはわかる」
「どうしてそんな事を?」
「遠くに行くことになったんだ」
「どこに?」
ベリルは微笑み、ゆっくり首を横に振る。カンテラを手に立ち上がった。彼は最後に言い残した。
「ロロノイの事はすまなかった。あんたは無事でいろよ」
これは夢かしら。
ラプサーラは、自分の中から現実感というものが失われてしまった事に気付く。
行かないで、と言いたかった。言うべきだと思った。けれど、あまりの疲労と眠気で、もう唇さえ動かない。
ベリルの足音が聞こえなくなると、たちまち深い眠りの闇に沈んでいった。
夜の中で、殺戮の熱狂が人間の姿となってカルプセス市街に押し寄せてきた。木兵たちがそれを押しとどめる脆弱な防波堤となり、ペニェフの市民とセルセト兵たちは、堀を越えて市庁舎に立てこもった。
「橋をあげろ!」
セルセト兵の叫びが木霊し、木兵たちが堀にかかる跳ね橋の鎖を巻く。橋は中央で割れ、上がり、そり立つ壁となる。爆薬つきの矢が放たれ、対岸の跳ね橋が破壊された。グロズナの工兵らが即席の橋を架けようとし、セルセト兵がそれを油壺と火矢で破壊した。攻防は果てしなく続いた。木兵達は互いの足を切り落とし、それを更に斧で切って、矢を作った。その前を油の壷が行き交って、布が浸され、矢に巻かれた。
ロロノイは火打ち石を鳴らし、戦友の矢に火をつけながら、頭の中に木霊するペシュミンの声と戦っていた。
ミハルはどこに行ったの!
ロロノイは答える。仕方がなかった
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