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Lirica(リリカ)
意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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非人間的であると糾弾する事は出来ない。責めるは神職の本領ではない。神職の領分とは、ただ、神に頭を垂れに来る者を受け入れる事だけだ。彼らの穢れごと。人間や人間の行為の内の、非人間的な部分ごと。
「日が高くなって参りましたね」
 ルロブジャンから話を振った。
「ええ、やあ、もう日陰が恋しいのなんのって。こう暑くっちゃ、たまりませんね」
「お勤め、ご苦労様でございます。お怪我のほうは如何ですか?」
「大したことありませんよ。壁から落ちた時はもう駄目かと思いましたがね。下に大きな木があったから助かったものを。まあ、運がよかったんでしょうね」
 ロロノイは兜を脱ぎ、額の汗を拭った。
「神官長さん、感謝します。毎日、特務治安部隊の幸運を祈ってくださっていること」
「それが私の勤めでございます」
「妹が部隊に同行してるんですよ」
 と、頭を掻いた。
「俺、妹に死んだと思われてるんじゃないかってね。あいつ落ち込んでないか心配なんですよ、て、こら!」
 どこかに歩いて行こうとするペシュミンの肩を掴む。
「またこのチビめ! 今度はどこに行くつもりだ?」
「だって、お花を探さないと……ママと私の分……落としちゃったから……」
「落とした?」
 ルロブジャンは気付く。彼女は気にしているのだ。あの日、全てのカルプセス市民の運命が決まったあの日、摘んだ花を失くしてしまって神殿に捧げられなかった事を。
「花は根と伏流の神ルフマンの御心を喜ばせる」
 ルロブジャンはペシュミンに歩み寄り、しゃがんで肩を持った。
「だが、お花を捧げなかったからと言って、それが神ルフマンにとって失礼に当たるわけではないのだよ。神ルフマンの崇拝者への愛は、そんな事で揺らぎはしない。さあ、神殿に帰ろう」
 少女はそれでもまだ、気にしている様子だった。
 その日、ペシュミンは夢を見た。
 夢の中で、かつて住んでいた村にいた。パパとママは畑に出ている。ペシュミンはまだ手伝いに行ける年ではないので留守番だ。普段は表に出て他の子供たちと遊ぶのだが、熱があって動けなかった。
 空腹のあまり吐き気がした。喉が渇いて痛い。体の節々が強張っている。まるで、固い床に直接寝転んでいるかのよう。ペシュミンは子供部屋に、他に誰かがいると気付く。
 窓の下で、木兵が膝を抱えていた。木兵の虚ろな右目の奥で、短い触角がそよぎ、蜂が顔を見せた。蜂は首を傾げた。遅れて木兵も首を傾げた。
 蜂さん、蜂さん、どうしたの? どうして首を傾げるの?
 ペシュミンは寝たまま尋ねる。
 木兵が立ち上がり、ベッドまで歩いて来た。いつしか木兵は、小さな花束を手に持っていた。
 花束が差し出される。
 嬉しくなったペシュミンがそれに手を伸ばした時、夢が破れた。
 花はなかった。家もなかった。優しい太陽の光も
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