意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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の名を教えてください」
掠れた声を喉から絞り出すと、デルレイが鋭い目で馬上から見下ろした。
「名前を聞いてどうするんだ?」
「呪詛を送ります。呪い殺してやる!」
自分の宣言で自分を奮い立たせ、頭を左右に振って意識をはっきりさせた。
「そいつは今血銅界の魔術師のそばにいます。だから顔は見える。後は名前が必要です」
「カルムだ。指揮官の名はカルムだ! 殺すな。生け捕りにしろ」
ベリルは短剣を抜き、自分の長い髪を一房切った。髪は魔術師の息吹を受け、風もないのに平原の彼方に飛んで行く。
ベリルは額で、魔術の対流を感じた。仲間の魔術師ドミネが血銅界の魔術師を抑えにかかっているし、もう一人の魔術師リヴァンスは罠を一つでも多く解除しようとしている。
敵の魔術師は老練だ。これだけの数の罠を維持し、ドミネと対抗し、なお指揮官を守ろうと、ベリルの呪詛を返そうとしてきた。
頭の後ろの高い所で、緑の界の魔力の道を、自分に耐えられる最大の大きさまで開く。呪詛返しの力を更に押し返し、自分の放った呪詛が敵指揮官に届くのを、長い白い髪が敵指揮官の顔に、胸に、喉に刺さるのを、ベリルは幻視した。
同時にドミネの玄の界の力が、血銅界の魔術を呑みこみ、押し潰す。一人の力ある魔術師の断末魔が自分の魔力に呼応し、頭の中に響いた。
「罠が消えた!」
術の反動でよろめきながら、ベリルは叫んだ。
「もう罠はありません、隊長! 平原は安全です!」
「伝令! 行け!」
ラプサーラはとうに罠の道を抜けたようだった。血に濡れた平原を見下ろしながら、その光景への怒りを支えに、ベリルは立ち続けた。伝令は駆け、民間人らはてんでばらばらに走り、兵士達はそれをまとめるのに必死だ。
グロズナの弓射隊が草を踏み分け、向かって来る。ベリルは再び緑の界への通路を開いた。体に流れこむ魔力を、左手に握りしめたアクアマリンが増幅する。
重い水の気を、弓射隊に向けて放つ。平原の真ん中で、グロズナの兵士達は見えざる力に押しつぶされ、圧殺されていく。
肉体が一度に受け容れられる魔力の量は、限度を越えつつあった。取りこぼした敵兵をセルセト兵が討ち取る様子を見下ろしながら、ベリルはそれを感じていた。
ふと、背の高い叢が不自然に揺れ動くのが見えた。
鼓動が高まる。
伏兵がいる。
叢の波は徐々に徐々に、セルセト兵が固まっている地点に近付きつつあった。
「畜生、これが最後だぞ」
緑の界の通路を再び開く。魔力の風に吹かれ、ベリルは左手の守護石を高く掲げた。間に合え! 届け! 伏兵たちの前に水の気の壁を作った。鬨の声を上げて、飛び出した伏兵たちがセルセト兵に迫る。
セルセト兵は逃げ出し、グロズナの伏兵は罠にかかった。濃密な水の気に捕らえられ、息ができず
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