意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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上をよぎった。
悪寒を感じ、空をふり仰ぐ。
血の色を持つ魔術の鳥が、長い尾を振り、雲一つない青空の下を旋回している。
獲物を狙う猛禽の気配を、その姿から感じた。
狙いを定める様に、鳥はぴたりとラプサーラを見下ろし止まった。
殺される。
魔術の鳥は息を吸いこむ様に、長い首を仰け反らせる。
どのように殺されるのだろう。
焼かれるのだろうか。
切り刻まれるのだろうか。
体を破裂させられるのだろうか。
次の瞬間、輝く矢が鳥の体を貫いた。鳥も矢も、青空を背景に光の粒となって消える。
魔術師だ。ベリルではない、味方の。
「ドミネさんだ」
兵士の顔に晴れ晴れとした笑みが浮かんだ。
「今の、救出部隊に同行してたドミネさんの魔術ですよ! 間違いないっす! 無事だったんだ!」
兵士たちが縦隊の中で歓喜の声を上げはじめた。水が足りず、声は枯れ、それでも歓喜に叫んだ。
歩かなければならない。震えながらラプサーラは歩く。希望があると信じなければならない。生きている間は。
もう涙は出なかった。歓喜は束の間の事で、丘陵に差しかかる頃、また背後から爆発音や、人体が壊れる音が聞こえてきた。
後続の人々は、その光景に慣れつつあるのかもしれない。悲鳴や泣き叫ぶ声は小さくなっていった。
息を切らして丘を登る内、背後から迫る混乱の気配に気が付いた。ラプサーラは思わず振り向いてしまった。
後続の人々に向け、茂みから矢が射かけられている。
縦隊は、矢の射程範囲外にあった。それでも、人々を混乱に陥れるには十分な効果があった。
ただの脅しよ! ラプサーラは叫びたかった。矢はあなた達に届かない、だから落ち着いて歩いて!
人々は我先に逃げ出し、列を乱す。
錯乱し、自らの喉を掻き切る人がいた。その死体を踏んで走る人々がいた。
ラプサーラは目を背けた。混乱と爆発音が立て続けに響いた。前だけを見よう。二度と振り返らない。味方の魔術師が追いついたのなら、その人が敵の魔術師を殺し、罠を解除してくれると。
信じよう。他に何もできない。
丘の上に、旗を振る兵士たちと、馬に跨るデルレイの姿が見えた。
「出口が見えたぞ!」
先行する兵士が叫んだ。デルレイの隣では、魔術師ベリルが緊張から解き放たれて脱力し、座りこんでいる。一瞬、目が合った気がした。ラプサーラは気を奮い立たせる。出口はそこだ!
丘の上のベリルは、罠の平原の出口近くにラプサーラの姿がある事を見て取った。あともう少しだ。頑張ってくれ。ミューモットが今、幾つかの罠の解除に専念してくれている、だからどうか……。親友の妹に、彼はそう願った。
デルレイの馬に寄り掛かるようにして、ベリルは立ち上がった。ひどい眩暈と頭痛がする。
「隊長、〈リデルの鏃〉の指揮官
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