意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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いた兵士は、何を目撃したのか、目を瞠り硬直する。そして何かを振り切るように、また前を向き歩き始めた。
今度は爆発音の他に、水の入った皮袋が弾けるような音を聞いた。人間が弾ける音に違いなかった。恐怖の悲鳴も、混乱の怒号が続く。
息をする事さえ辛かった。なのに泣くのを止められない。
前を歩く兵士が手を差し伸べてきた。ラプサーラは右手をダンビュラと繋いだまま、縋るように左手を伸ばした。
「自分、毎朝占いするんすよ」
手を繋ぐと、兵士は呟くように話しかけてきた。
「占い?」
「そ。右足で靴を飛ばすんすよ。で、裏向きに落ちたら悪い事があって、表向きに落ちたら良い事があるっす」
ラプサーラは、馬鹿げていると思いつつ、しゃくりあげながら会話を続けた。
「今日はどうだったの?」
「もちろん、表向きっすよ! だって、表向きになるまで何回だってやり直しますから! だから」
兵士は悪路に息を切らしながら、曲がりくねった草の踏み跡の上を歩き叫ぶ。
「だから、自分と一緒にいればあなたは大丈夫っすよ!」
直後、背後の爆音が耳を塞いだ。
熱風が背中を叩き、髪を煽る。
今度は間近だった。ラプサーラは前後の二人と手を繋いだまま、その場にしゃがみこんだ。
水の弾ける音がそこかしこで連鎖する。
四方八方に湿り気のある物が降り注ぐ音。目を開ける。降り注ぐ血と内臓……手や足や……さっきまで真後ろにいた人々の、もう生きていない、破片だった。
それら人体の破片が、落下した先でまた魔術の罠を発動させる。
ラプサーラは自分が悲鳴を上げている事に気付いた。その声で全ての物音を打ち消そうとしている事に気付いた。
「聞こえない! 聞こえない!」
両手に力をこめ、目を固く閉ざし叫ぶ。
「聞こえない! 見えない! 何にも聞こえない!」
どれほどそうしていたかわからない。前の兵士に肩を揺さぶられ、号泣しながら目を開けた。まだ生きている。それを確認した。前の兵士も生きている。後ろのダンビュラともまだ手を繋いだままだし――。
ダンビュラは、手しかなかった。
繋いだ手。その手首より先が、すっかり消え去っていた。
何かの悔いや思い残しの様に、彼女の白い手が、自分の右手の中にある。
ラプサーラはまた悲鳴をあげ、手を振り払った。ダンビュラの手首は草の上に落ちた。
「歩いてください! 立って!」
腕を掴まれ、強引に立ち上がらされた。
「お願いです。自分には人を背負って歩く余力はないっす!」
力の入らぬ足で、それでもようやく立ち上がると、その名も知らぬ兵士にしがみつくように歩いた。やがて、後続の人たちが追いついて来た。ラプサーラは、その、知らない後続の人とも手を繋いだ。そうしなければ自分の輪郭さえ保てない気がした。
何かの影が頭
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