第百九十五話 長篠の合戦その三
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「我等は我等でな」
「武門の名に恥じぬ戦をですな」
「それをしようぞ」
こう言うのだった。
「そのうえで生きようぞ」
「これからも」
「この戦で勝てばな」
その時のこともだ、家康は酒井に話した。
「吉法師殿が仰ったことだが」
「何とでしょうか」
「遠江の東と駿河一国をな」
「まさかと思いますが」
「どうかと仰っておる」
「何と、それを合わせればです」
遠江のうちの豊かな東と駿河、これだけでと言う酒井だった。その出した言葉には明らかな驚きがあった。
「百万石を超えます」
「そうじゃ、今の領地と合わせればな」
「我等は百六十万石になりますな」
「夢の様じゃな」
「全く以て」
その通りと答えた酒井だった。
「我等が百六十万石とは」
「だからな」
「この戦はですな」
「守るべきじゃ」
是非にというのだ。
「そして生き残るべきじゃ」
「そうなりますな」
「うむ、では武田が来てもな」
「我等は全力で戦い」
「そして生きるのじゃ」
こう言うのだった。
「わかったな」
「さすれば」
「わしも信じられぬわ」
家康も言うのだった、信長から直接言われた彼もだ。
「当家が百六十万石とはな」
「ですな、それは」
「しかし吉法師殿は約束は破られぬ」
実はそうなのだ、信長は彼から約束を違えることは幼い頃から今に至るまでないのだ。
家康はそのことをよく知っている、だからこそこう言うのだ。
「だからな」
「我等が生き残れば」
「百六十万石じゃ」
「そうなりますか」
「ではよいな」
「はい、生き残りましょうぞ」
「果敢に戦いな」
こう話してだ、家康もまた敵を待っていた。そして。
信玄は家臣達にだ、本陣において問うた。
「皆朝飯は食ったな」
「はい、全ての兵が」
「食い終わりました」
「よし、ならばじゃ」
このことを確認してだ、言うのだった。
「これよりじゃ」
「はい、いよいよですな」
「戦ですな」
「前に出よ」
つまり攻めよというのだ。
「よいな」
「そして、ですな」
「そのうえで」
「織田を突き崩す」
その大軍をというのだ。
「そのうえで勝つぞ」
「柵はどうされますか」
高坂が問うて来た。
「それは」
「あれか」
「はい、縦に広く敷いていますが」
「柵は倒す」
そうしてというのだ。
「そのうえでな」
「斬り込みますか」
「そうじゃ、鉄砲が撃たれればな」
「その弾を込める間に斬り込み」
「柵を倒してじゃ」
信玄は高坂にも言うのだった。
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