第百九十五話 長篠の合戦その一
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第百九十五話 長篠の合戦
朝になった、織田も武田も双方朝飯は慌ただしく食った、干飯を手早く腹の中に入れてそれからだった。
信長は本陣から柵の向こう側を見つつだ、池田と森に言った。
「ではな」
「はい、それではですな」
「これよりですな」
「戦じゃ」
一言で言った言葉だ。
「はじまるぞ」
「ですな、既にです」
「鉄砲の用意は出来ております」
二人は信長にそれぞれ答えた。
「殿の仰る通り」
「用意が出来ております」
「うむ、ではな」
信長も二人の言葉を受けて言う。
「武田が来ればな」
「殿のお考え通りに」
「そうして撃ちますか」
「そうすれば勝てる」
武田でもだというのだ、強兵である彼等もだ。
「そしてな」
「そして、ですな」
「鉄砲で撃ちつつ」
「弓矢もある」
これもだ、信長は忘れてはいないのだ。
「そして武田じゃ、幾ら鉄砲で撃とうともな」
「柵にですな」
「近寄って来ますな」
「長槍もある」
鉄砲と並ぶ織田家を支える武器だ、これも話に出すのだ。
「これを柵から出してな」
「武田が柵を倒すことを防ぎ」
「そうして」
「近寄せぬ。この戦は鉄砲だけではない」
「二十万の兵全てを使い」
「そのうえで」
「戦をする」
そうした戦だというのだ。
「わかったな」
「はい、さすれば」
「我等も」
池田と森も応える、そうしてだった。
二人は信長にだ、強い声で言った。
「本陣はこれまで通り我等が守ります」
「殿には指一本触れさせませぬ」
「ですから何があろうともです」
「ご心配なきよう」
「そうか、頼むぞ」
信長も二人の言葉を受けて言う。
「本陣は」
「武田、どれだけ強くとも」
「我等がおります」
「だからです」
「殿はこちらにおられて下さい」
例え何があろうとも、というのだ。
「お守り申します」
「武田信玄自身が来ようとも」
「ははは、武田信玄とは戦の後で会おう」
笑ってだ、信長は二人の言葉を聞いてこうも言った。
「この戦の後でな」
「お互い生きてですな」
「そのうえで」
「殺しはせぬ」
捕らえようとも、というのだ。
「殺すにはあまりにも惜しい」
「確かに。武田信玄はです」
「死なれては惜しいです」
「だからですな」
「殺すことは」
「せぬ、猿夜叉や毛利元就と同じじゃ」
これまで組み込んで来た者達と、というのだ。
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