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もう一人(ひとつ)の虹
エピローグ

 町は燃えていた。
 高く昇る煙がその異常を回りに伝える。
 乱れるような数頭の馬の蹄の音と共に、異常を聞きつけてきたのだ。
 
 町は泣いていた。
 炎に焼かれて、影だけが揺らめいていた。
 馬から降りたもの達は異常を探して町へと足を踏み入れる。
 
 町は死んだ。
 
 町が燃えていても、人が灰になっても、ただ一人、立っていた。
 見渡しの良くなったその場所は何事もなかったかのように風が土に染み込んだ記憶を運んだ。
 
 心をなくした少女はまわりを見回す。
 壊れた建物、舞い散る灰や木屑、まるで今の私のようだ…そう思った。
 まだ、左手が覚えている。
 おぞましい記憶を。感覚を。
 全て私が受け入れよう。全て私が償おう。

 「…おーい?聞いてんのか?」

 昔、10年ほど前の昔話…

 「もう時間だぞ?って言うかとっくに始まってんだぞ!?」

 もう二度と失わないように…もう二度と誰も傷つかないように…

 「なぁ、俺が一方的に拷問してるみたいになってんだけど…俺がいじめてるみたいな展開になって…」
 「わかった」
 
 この、左手に誓って…

 
 お気に入りの紺色のパーカーを羽織って、部屋をでる。
 待ち構えていたのは部下達だった。長く細い廊下の両端に整列し、私が通ると頭を下げる。
 ただ一人を除いては…
 「やっと来たか。ったく、何度呼んだと思ってんだ?」
 「ふ…」
 「鼻で笑うな、鼻で」
 その男が手を挙げて合図すると廊下に整列していた端の二人が外へ続く扉を開け放った。
 
 今日は、我ファミリー主催のトマト祭りが開催される日だった。 


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