4、人形になるなんて真っ平ごめんよ。
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かり笑いを治めた。
「──悪い悪い」
笑いすぎて涙の溜まった目尻を拭いながら、青年は立てないミヤコの隣に腰を下ろした。
「変に気を張ってたものだから、なんだか気が抜けてな。馬鹿にしたわけじゃない。女なら怖がって当然だ」
「……女、だからって言われるのは好きじゃないわ」
確かに怖かったのは本当だ。
自分が狙われていたのか、彼が狙われていたのかは分からないが、確実に刺客はいたのだ。
それに気付けなかったのは、男だから、とか女だからとかの問題じゃない。
……私はただ守られるだけの存在にはなりたくない。
はいはい、となんでも言うことを聞く人形になるなんて真っ平ごめんよ。
「まぁ、そうだな。最初、隙を見てそこの馬でいつでも離れられるようにしているような女は初めてだ」
「……気付いてたの?」
「これでも、腕は立つと自負してるからな」
「知ってるわ……」
でなければ、隠れた刺客の気配だって探れないだろう。
悔しくて青年から顔を背ける。
「──格好良かったぞ」
「え?」
「何かあったら、俺と対峙してでも隙を作るつもりの姿が。近くで見たら、こんなに華奢なのにな」
「………っ」
言葉が出なかった。
だって、彼が。彼の目が真っ直ぐにミヤコを見ている。
彼の手が伸びてくるのを視線だけで追う。避けることなんて、考えもつかない。ただ、彼の成すまま。
彼の手が、ミヤコの髪を一房掬い取ると、それを優雅な仕草で口付けた。
「勇ましさの中にも凛とした美しさがあって」
格好良かった、と彼がもう一度言う。
「あ、の……、その……」
自分でも分かる。
今の自分はみっともないくらいに動揺して、顔なんて真っ赤になってるに違いない。
情けない、これくらいのこと返せなくてこれから先、どうして行けるだろうか。
あと一ヶ月。一ヶ月経ったら、自分は嫁ぐのだ。慣れ親しんだこの国を出て、隣国へと。
政略結婚とは言え、素直に歓迎される訳ではないだろう。些細なことが、命取りにならなくもないのだ。
気丈に振る舞え。
───それが、『私』の役目。
「──それはどうもありがとう。最高の誉め言葉として受け取っておくわ」
髪を掴んでいる青年の手にそっと、触れながらミヤコは言葉を返した。
その時に、青年の瞳を下から見つめ、微笑むのも忘れない。
───大丈夫。これくらいなんてこと……。
「わっ!?」
いきなりぐしゃぐしゃと頭を撫で回された。
「な、何するのよっ!?」
「人が珍しく誉めて誉めてやってんのに、素直に受け取れよ」
「珍しくって、知らないわよ! そんなの!」
「大体、腰抜かしたっつって、情けねぇとこもうバッチリ見てんのに、今さら取り繕ったって意味ねーだろ」
その通りだった。
何を今さら…
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