第010話 苦渋のセンゴク
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そうな顔で訊いた。
カツコはハトの顔を見て答えた。
「そんなことしないわよ、可哀想だもの。
みんな私の毒で寝ちゃってるだけよ」
何となく矛盾した一言だった。
セキレイは微妙な顔をしていた。
視線の先の寝ている″鎧虫″を見ながら彼女に訊いた。
「毒って睡眠薬みたいなモンなのか?」
「えぇ、大体そんな感じよ」
カツコは人差し指を変形させて棘を伸ばした。
鋭くて、いかにも危なそうなトゲが無数に生えていた。
「私は地球では、″甲条薔薇″っていう種類らしいわ」
彼女の能力、″甲条薔薇《コウチョウバラ》″とは
206×年に福岡県 三井郡 大刀洗町 甲条で発見された突然変異種。
しかも個体数が他種より圧倒的に少なく、甲条市内に点在していて
絶滅危惧種に指定されていた(現在は日本と共に消滅)。
見た感じはごく普通の紅いバラで
その美しさに魅了された人間たちは、それを採取して持ち帰ったりしていた。
このバラの有害性に気付くまで、それは続けられたという。
美しいバラには毒がある、などとたまに言われるが
本来、毒を持つ種類のバラは存在しなかった。
だが今は違う。毒を持つバラがこの世に生まれてしまったのである。
毒は体内に入ると、血管内を巡って
その生物の中枢神経に到達、直接作用し
機能を少しずつ低下させていくというものである。
つまりは、もの凄く眠たくなってしまうのだ。
微量なら睡眠薬のようにほとんど無害だが
入りすぎれば心臓や脳の活動さえも停止し
まさに眠るように死を迎えることとなるのだ。
これにより、市内3724人が病院に運ばれ
内2061人が死亡したという。
これを知った議会は花の焼却処分を始めようとしたが市がそれを拒否。
絶滅危惧種化を破棄したが、それにより市民のほぼ全員が反対運動を始めた。
やむを得ず、再び絶滅危惧種に指定し直された。
市内では、“甲条薔薇特別保護条例”という法が発令された。
これは、もしバラを見つけた場合は手で触れず、すぐに市役所等に連絡し
普通のバラだった場合はそのまま放置、″甲条薔薇″だった場合は
“植物管理センター”が回収するという条例である。
処理を誤らなければ安全な植物なので
甲条市ではガラスケース内でそれらを栽培。
安全に配慮した上で、甲条市が経営する大型植物園で展覧された。
これにより市内外、全国、果てには海外からも観光客が訪れた。
209×年のあの日に、日本が消滅するまで
″甲条薔薇″は園内の大人気植物だったという。
「悲しいわ‥‥‥‥‥こんなに綺麗なのに」
カツコは指先にバラの花を咲かせた。
反らすように大き
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