意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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3.
ラプサーラは夜通し歩き続け、ついに朝日を拝んだ。太陽が中天に差しかかっても休憩は許されず、水の一杯も与えられなかった。その上、隊列の先頭集団は昼前から山道に差しかかっていた。喉は渇ききり、胃が空っぽなせいで吐き気がした。時折隣を馬に跨った伝令が行き来し、獣臭い風を起こした。常に頭の中を占めているのは、カルプセスに残った兄の事だった。最後の集団は、もうカルプセスを出ただろうか。列後方からは、夜明け頃までは様々な噂が伝わってきたものだが、今は誰にも口を利く元気がない。
喘ぎながら山道を進み、そのせいでますます喉が痛くなる。足が上がらなくなった頃、ようやく大休止の号令が出た。水と食料が配られた。革袋の水を飲み干すと、配られた保存用の硬いパンを一かけらも口に入れぬまま、ラプサーラは眠りこんだ。
揺り起こされて目を覚ました時には、周囲は薄闇に包まれていた。
「もう夜なの?」
起こしてくれた女性に聞いた。医業関係者のダンビュラという女性で、セルセト人だ。出発からずっと隣り合って歩いて来た。
「もう朝、よ」
ラプサーラは目をこすりながら、昨夜配られたパンを荷袋から出し、唾で湿らせながら食べた。水が配られた。次の配給がいつになるかわからない。味わって飲む。
「一番後ろの人達はどの辺りにいるのかしら」
「それが、後ろの集団が昨日から酷い攻撃にさらされているって」
ダンビュラが声を潜め、答える。
「あくまで噂よ、だけど……」
出発を告げる笛が鳴り、二人は口を噤んで立ち上がった。行軍中は私語を慎まなければならない。足の筋肉が硬直し、感覚がなかった。それでも誰も何も言わず、前進を再開する。
隊列は幾つも峠を越え、ほぼ尾根伝いに山を進んでいった。ラプサーラは黙々と歩いた。座りこみたかったが、後ろに二万を超す人々がつかえている事を思うと歩かざるを得ない。歩きながら、グロズナ軍はどこまで迫っているだろうと考えた。
頭の中で持っている知識を反芻する。
ナエーズ総督にペニェフの代表者が選ばれ、ペニェフ有利の政策が行われる事に反発し、グロズナは独立宣言を公表した。それまでグロズナは、ナエーズ南部の山岳地帯と西の半島を実質支配していた。だが、彼らの悲願である独立国家樹立には、地理的に連続した土地が必要不可欠となる。
独立宣言から間もなく、グロズナは民族浄化の御旗のもと、南の山岳と西の半島を結ぶ地域のペニェフを武力で排除し始めた。その勢力はナエーズ中西部のカルプセスにも迫り、排除は殺戮に形を変えながら、徐々に北上を続けている。
これは、グロズナという民族が特別に自己中心的であり残虐であるという話ではない。ペニェフが優位の時には、同じ事をペニェフもしてきたのだ。
ラプサーラは一度だけ、世界図上のナエーズから過去を幻視した事
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