意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
―3―
[9/10]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ちなさに傷つく自分の心を感じた。
「それはこっちの台詞よ。何だって言うの」
「いいところに来た」
デルレイが馬から離れ、歩み寄る。
「娘、今この場で星占を行えるか」
「無意味ですよ、隊長。星占は個人の生死は占わない」
「そういう物なのか?」
「ええ。よほど人間界で影響を及ぼす人物でもない限り。そんな事をしてもこの先に待ち構える物は変わらないでしょう」
ベリルはちらりとラプサーラを見たが、またすぐ目を逸らした。
「罠が仕掛けられている。血銅界の魔術の罠だ。偵察部隊はそれにやられた」
「どうしてそんな事がわかる?」
「俺が魔術師だからですよ。仕掛けた奴の顔だってわかります」
ベリルは肩を竦め、
「そういう物ですよ」
魔術師の言を疑うつもりは、ラプサーラには毛頭ない。デルレイは渋い顔をするばかりだ。
「俺が先行します。許可をください」
「魔術師は貴重だ」
「わかってます。その能力の発揮しどころですってば」
「リヴァンスとドミネを救出部隊に同行させた以上、君は我が隊で動かせる最後の魔術師だ。我々は君を失うわけにはいかん。わかっているだろうな」
「重々承知の上です。行けるところまで行きましょう、隊長」
デルレイはベリルが列の先頭に立つ事を許可した。ラプサーラはデルレイを警護する兵の真後ろを歩く。いつの間にかミューモットが背後についていた。気が付いた時、得体の知れない物をこの男から感じ、背筋が冷たくなった。
森の坂道の途中で行軍が止まった。兵士たちの頭越しに、坂の下で立ち止まるベリルの後ろ姿が見えた。彼は森が終わる場所で立ち止まり、片腕を上げて進むなと合図をしている。後ろのミューモットが意味ありげに呻いた。
兵士たちとデルレイがベリルのもとに集まる。ラプサーラもそっと近づいた。ベリルの目の前には平原が広がっていた。ラプサーラは道の脇にそれ、木々の合間から前方を窺った。
見るに堪えない物がそこにあり、慌てて目を閉ざした。その為、赤く血塗られた草と点々と飛ぶ蠅以外、何も見ずに済んだ。一度意識してしまうと、蠅の羽音が耳を打ち、腐臭が鼻を襲う。カラスもしきりに鳴いていた。ラプサーラは道に戻った。デルレイが口を開く。
「何が見える?」
「こりゃひでぇや」
ベリルは馬から下りて答えた。
「この平野一面に、点々と術が敷かれています。踏んだら発動するように。彼らは――」
と、言い淀む。
「踏んだらああなるのか」
デルレイは偵察部隊の兵士達の死体を見ながら顎を撫でた。
「ベリル、俺はどうも魔術に詳しくない。血銅界の魔術師を擁するグロズナの軍事組織は何だったか?」
「〈リデルの鏃〉の一党ですよ。よりによって一番狂信的な奴らです」
「もう一つついでに聞こう。その罠は踏まなければ発動しないんだな?
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ