意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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うとした。陽気だった兄の、笑った顔を、酔って騒ぐ顔を、思い出そうとした。
できなかった。頭に浮かぶのは全て想像の中の、墜落していく兄の顔だけだった。
「手を伸ばしたんだ」
ベリルは右手で土を掴んだ。
「でも届かなかった」
彼が掴む土のその下に、兄の指がある事を思った。それを掴めば兄の命が助かる事を思った。まだ助けられると。過去は変えられると。
「兄さん」
ラプサーラはベリルの右手を払いのけ、彼が抉った土を更に深く、両手で掘り始めた。
「兄さん!」
ベリルが身を引き、続いて身を乗り出して手首を掴んだ。
「おい、どうした?」
「兄さんが」
手を振りほどき、尚も両手で土を掘る。
「兄さんを助けないと!」
「やめろ!」
左手の守護石を懐にしまい、ベリルは今度は両手でラプサーラの両手首を掴んだ。
「どうしたんだよ、やめろよ!」
「兄さんが落ちてしまうわ!」
「土掘ったってしょうがないだろ! あいつは死んだんだ!」
「邪魔しないで!」
「目を覚ませ!」
両肩を掴まれ、揺さぶられた。ラプサーラは咄嗟に土まみれの右手を上げ、ベリルの顔を平手で叩いた。
「どうして兄さんは死んだの?」
乾いた音で狂乱から覚め、怒りが宿る目に、暮れの空の光を集めながらラプサーラは尋ねた。
「どうして同じ場所にいたのに、あなたは生きてて兄さんは死んだの?」
「ロロノイは運が悪かった」
「運ですって?」
低い声で繰り返す。
「よくもぬけぬけとそんな事が言えるわね!」
「ラプサーラ、駄目よ。ラプサーラ。静かに」
立ち上がったラプサーラの肩に、誰かが後ろから手を乗せる。ダンビュラだった。ラプサーラは脱力して、その場に座りこんだ。胸に冴え冴えとした憎悪が夜の潮の様に満ち、引く予兆を見せなかった。ラプサーラは顔を覆う。ベリルはそっと去った。食料の配給が始まったが、ラプサーラは動かなかった。
暫くすると誰かが来た。草を踏む足音の重さから、ベリルではないと思った。何よりその、禍々しい気配から。
顔を上げたら闇だった。足もとにカンテラが置かれ、その火の向こうにミューモットのいかめしい顔が現れた。中年の魔術師は紙に包まれた干し肉と、保存用のパンを寄越した。
「食っとけ」
彼は無愛想に言う。
「これが最後の食料だ」
ラプサーラは無感情になるよう努め、受け取る。
「じゃあ、新シュトラトはもうすぐなの?」
その質問をミューモットは鼻で笑った。
「まだ三分の一も進んでねえ」
黙りこみ、じっと食料を見る。
どうして兄さんの事は助けてくれなかったの?
そう質問したかったが、答えが怖かった。運が悪かったで片付けられるのが堪らなく恐ろしかった。もっと深遠な意味が欲しかった。深い理由付けが。
それでいて、ベリ
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