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Lirica(リリカ)
意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
―3―
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ぎり、ペシュミンは泣き叫んだ。思わず座りこむと、兵士は軽々と抱き上げて、一番近い避難所である、ルフマンの神殿に向かって歩き始める。
 犬の毛と土と血のしみに、兵士は気付いていた。
 確か、猟犬を殺処分した家が何件かあった。凶暴化しては手に負えないから、処分するしかなかったのだが。だが、自分の知る限りでは、ほとんどがグロズナの家だった。
 ペシュミンは、兵士の自分への扱いが存外優しい事に拍子抜けし、もがくのをやめた。
「おお、良い子だ良い子だ。名前は何て言うんだい?」
 兵士は間を持たせる為に口を開いた。
「俺はな、ロロノイって言うんだ」

 ※

 木々に張られた幕の中から、軍人たちが出てきた。軍議が終わったのだ。夜は頭上に忍びより、己の手も見えないほどの暗闇を、もうすぐ連れて来る。軍人たちは小声で囁きながら散っていく。
 魔術師ベリルが近付いてきた。
「これからどうなるの?」
 ラプサーラは木の根本に座りこんだまま聞いた。ベリルが眼前に片膝をつき答える。
「分断された後部集団の救出作戦が行われる。それに魔術師も二人投入される。俺じゃないけど」
 休めよ、とベリルは言った。それは心からの気遣いであると共に、ある種の逃げである事をラプサーラは感じた。
「待って」
「何だい」
「兄さんはどうやって死んだの?」
 ベリルは唇を噛んでうなだれる。無残な死だったの? 心の中で更に尋ねる。だって、魔術で殺されたという事は?
「明け方、カルプセスを出発する隊列に向けてグロズナ軍の攻撃が始まったんだ。俺は市内にいたけれど、敵に魔術師がいる事を感じて攻撃を開始した。魔術師を生かしておくと厄介だから」
 魔術師は希少であり、かつ強大な力を持つ。それゆえセルセト本国では、魔術の才を持つ者を幼い内からかき集め、特別な教育を施す。
 そのような育ちゆえ、魔術師は魔術師の脅威を誰より分かっている。
「敵の魔術師は三人いた」
「そんなに……」
「あいつら、本気でカルプセスを落とすつもりだったんだ。二人までは俺が殺した。ロロノイはずっと俺の隣にいた。戦闘が始まってからも、経緯を見守るために。俺が死んだら、俺の代わりに、見たものを報告しなきゃならないから」
「その三人目が兄さんを?」
「ああ」
 ラプサーラは、胸の底で冷たい憎悪が震えるのを感じた。
「街の壁を攻撃された。防ぎきれなかったんだ。あいつ……ロロノイは……壁の上から弾き飛ばされて……」
 ラプサーラは想像する。夜明けの薄紫色の空を。カルプセスを囲む高い壁を。
 そこから墜落する兄を。
 目を見開き、口も開き、信じられないという顔をして落ちていく兄を。
 妹を頼むとデルレイに懇願した時の表情を思い出そうとした。カルプセスを出ると告げに来た時の切羽詰まった表情を思い出そ
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