意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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しゃくりあげながら、ペシュミンに語りかけた。
「どうして――何で――」
堪らない気分になり、ペシュミンも草の上に座りこんで共に涙を流した。通りから足音が聞こえれば、慌てて声を殺してまた泣いた。
「いい子だったんだよ――ノエは凄く……」
やがて二人の頭上に満天の星が輝きを放つ。月は生ぬるく満ちて光り、立ち舞う蠅の虹色の翅をきらめかせる。
ミハルが涙を拭いて立ち、どこかに行った。戻って来た時には、小さなスコップを持っていた。それで土を掘り始めた。ペシュミンも意を汲んで、両手で湿った土を掘り返した。
二人は力を合わせて猟犬の体を引きずり、穴に落とした。埋めるというよりは、僅かな窪みに落とし、その上に土を盛る形となった。涙は枯れていた。二人は疲れ、土まみれで、更に空腹だった。
台所に戻ると、ミハルが汲み置きの水でペシュミンの手を洗ってくれた。二人は台所を漁り、砂糖の壺を見つけ、夢中になって舐めた。
「神殿に戻って」
暗闇の中で、ミハルの声が聞こえた。
「怪しまれちゃうよ」
ペシュミンは呆然としながら、うん、と答えた。意味を受け止めたくない光景を見たせいで、疲れ果てていた。
「僕はここにいるよ」
うっすらと影のように見えるミハルの輪郭が動き、手と手が触れ合った。ペシュミンはミハルの手を握り返した。冷たいのに、嫌に汗ばんだ掌だった。
「忘れないでくれる? また会いに来てくれる?」
「来るよ。約束するよ」
「ねえ、もし何かがあったら、僕はノエのお墓にいるから……」
二人は家の玄関口まで歩いて行き、耳を澄ませた。戸の外からは何も聞こえてこなかった。
「気を付けてね」
「うん」
ペシュミンは名残惜しく、繋いだ手に力をこめた。ミハルもそれに応えた。
「ばいばい」
そして、二人は手を放した。
戦勝広場からルフマンの神殿に続く道を、ペシュミンは一人で歩いた。服は土まみれで、血がつき、長い犬の毛もこびりついていた。指と爪の間には土が詰まり、口の周りは砂糖でべたついている。頭には如何なる思考もなく、惰性で足を引きずるように歩いていた。そんな有り様だから、セルセト兵の足音に気付くべくもなかった。
カンテラの火が視界に入り、ペシュミンは息を止めた。顔を上げると革鎧を着た大柄な男の姿が目に入った。セルセトの兵士だ。怖くて顔を見れなかった。相手も驚いた様子で、息をのみ、声を出さない。
ペシュミンは踵を返して逃げ出した。
「待ちなさい!」
たちまち兵士に肩を掴まれた。
「ペニェフの子だな。今までどこに隠れてたんだ」
「放して!」
ペシュミンは手足をばたつかせてもがくが、兵士は放さない。
「落ち着きなさい! こら! 何もしないから!」
「嘘!」
街を覆う壁に連れて行かれ、縛られていく人々の姿が頭をよ
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