意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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あのセルセト人の魔術師だった。
「ラプサーラだな」
魔術師はぼんやりと目を開けるラプサーラの前にしゃがんで言った。
「俺の事がわかるかい?」
「あなたは、魔術師の……」
記憶をたどりながら、掠れた声で答える。
「……ベリル」
頷くベリルの後ろに二人の男がやって来た。一人はこの隊列を率いるデルレイ。もう一人は、先ほど馬に乗っていた、中年の色黒の男だった。
「大丈夫か? 今話せるかい?」
ベリルは落ち着かない様子で左手を動かしながら言った。無意識の動作だろう。彼は左手に水色の大きな石を持っていた。魔術師は自分を守護するための道具を持つ事が多い。この石が彼の守護であるなら、何が彼を落ち着かなくさせて、それを何度も握り直させているのだろう。嫌な予感がした。
「兄さんは?」
ベリルは深く俯いて答えた。
「カルプセスで……戦死した」
ラプサーラは意志に反して両目が大きく見開き、全身が硬直するのを感じた。顔からさっと血の気が引いた。ついで、カッと熱くなった。脈拍が次第に高まり、怒りとも焦燥ともつかぬ複雑な感情が、煮えたつように湧き上がってきた。
カルプセスに戻らねばと思った。ベリルの言う事が本当なら、ロロノイが、少なくともその肉体が、カルプセスにいるのなら。
「カルプセスを出る前に、グロズナの魔術攻撃にやられたんだ」
「君のお兄さんは立派に戦った」
デルレイも言葉を添えるが、殆ど聞こえなかった。
ラプサーラの頭の中では、兄と死に関する様々な情報と、焦燥に関するあらゆる感情が、複雑に絡み合っており、しかし結びつく事はない。カルプセスに戻らなきゃ。ラプサーラは落ち葉と柔らかい土に指をついたまま、しかし実際には動けない。
死んだ。
死。
もう会えない。
では、あれが最後だったというの? カルプセスでデルレイに妹の行き先を託し、踵を返して人ごみに消えて行った、あの後ろ姿を見たのが?
嘘だ。
言わなければ。そんなのは嫌だと。さあ、何か言わなければ、馬鹿だと思われるわ。ラプサーラは焦る。唇が震える。頭の中でベリルの言葉が浮かんで消える。戦死した。カルプセスで。敵。魔術。やられた。
「魔術――」
ラプサーラは、もはや自分が何を思っているかも自覚できぬまま口を開く。
「魔術師がいれば百人力だと――兄さんは言っていたわ――魔術師が一緒だから大丈夫だと――」
ベリルの頬がさっと赤くなった。申し訳ない事を言ったわと、ラプサーラは鈍麻した頭で思った。そんな悲壮な顔をしないでと思う。やめて。本当に兄さんが死んだみたいじゃない、そんな悲しい顔。
「この人は誰?」
兄の代わりに立っている、見知らぬ男について尋ねた。ベリルの肩が震える。全く意外な一言だったようで、顔を上げた彼は少しだけ動揺を見せたが、
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