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Lirica(リリカ)
意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
―3―
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がある。見えたのは、並べた椅子に座らされ、戦斧で順に頭を潰されていくグロズナの男達の姿。喉をかき切られ、谷底にゴミのように捨てられた子供達の姿。ルフマンの神印の形に立たされ、油をかけられ焼き殺される女達の姿。襲撃された村で、倒れている人々を更に剣で刺し、入念に殺し尽くすペニェフの兵士達の姿。
 同じ事を、ペニェフとグロズナは何度も何度も繰り返してきたのだ。それがナエーズの歴史だ。
 ラプサーラは幻視した事を後悔した。何より後味が悪いのは、数々の戦闘と虐殺が神ルフマンと神リデルの名の許に行われた事実だ。ルフマンは皮肉屋ながら温厚寛大な農耕の神であり、リデルは狩人の守護神であると共に、公明正大な平和と秩序の守護神でもある。人間に神の御心を推し量る事はできないが、これらの神が虐殺を求めているとは、少なくともラプサーラには思えない。
 何故、神の名を唱えながら殺しを行うのだ? それは、殺されたくないからだ。神からの守護を得る為に、神の名を唱えるのだ。では何故、殺されるかもしれない危険を冒して殺しに行くのだ? それは、殺された同胞の遺恨と無念を晴らす為だ。
 同胞とは、同じ神を崇める共同体の一員の事だ。共同体同士の戦いはいつしか、神と神の代理戦争のようになった。そこに神が不在のまま。
 戦いの起源を遡れば、そこに戦いの意味は見出せるだろうか? あるいは歴史の意味が?
 わからない。わかるのは、今もグロズナ達が背後に迫りつつある事だけだ。彼らの軍勢の内の何割が、この隊列を追って北上してきているだろうか。カルプセスから新シュトラトの間には、他にも村や町がある。カルプセスを出た隊列だけにかかりきりにはなるまい。それでももし……山岳民族と山中で戦闘に陥るようなことがあれば……。
 ダンビュラに服の袖を引かれ、ラプサーラは我に返る。蹄の音が後方から迫ってきた。道の脇に身を寄せると、獣臭い一陣の風と共に馬が通り過ぎた。
 馬の背に跨る人物の背中に見覚えがあった。緑色のマント。長い、水色がかった白髪を一本に束ねた後ろ姿。
 カルプセスを出た日、兄と共に家に来た魔術師だ。
 後ろからもう一頭の馬が来る。今度は知らない男だった。土埃で汚れた灰色のマント。そのフードを頭にかぶり、顔を隠している。
 すれ違う時、目が合った。色黒の肌で、無精ひげを生やした、中年の男だった。男は冷たい目でラプサーラを見た。たくさんの人の中から、ある邪悪な意志で以って、まっすぐラプサーラを見つけ出したかのように。男はラプサーラの背に寒気を残してたちまち通り過ぎた。
 それから間もなく小休止が与えられた。一度座りこむと、両脚が激しく攣った。沢に水を取りに行く兵士らの声を聞きながら、冷たい岩に頬を寄せて体を冷やし、ラプサーラは束の間まどろんだ。
 その内誰かが前に立ち、その気配で目を覚ます
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