暁 〜小説投稿サイト〜
Lirica(リリカ)
意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
―2―
[7/7]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
殿に行け』なんて変だよ……そこだってきっと、避難してる人いっぱいいる筈なのに……」
 その目に涙の粒が浮かび、ペシュミンは動揺する。
「ミハル、泣かないで、ミハル――ねえ、じゃあさ、リデルの神殿を見に行こうよ!」
 泣き出しそうだった表情が、その一言で和らいだ。
「おじさんの所に行ってみよ。きっと何かわけがあって迎えに来れないんだよ!」
 幼い二人は手を取り合って、神殿の通用門を抜ける。ルフマンの神殿が背後に遠ざかる。来た時には道を染めていた朝日が、今は夕日になっていた。
 狩人の守り神リデルの神殿への道は、ミハルが知っていた。道にセルセト兵の姿があると、それを避けて遠回りをした。子供ゆえの直観で、そうしなければならないとわかった。
 リデルの神殿の通用門は施錠されていた。二人は柵によじ登り、堅い地面に着地する。
「おじさん、おじさん」
 裏の扉も鍵がかかっていた。扉に耳をつけてみるが、何も聞こえてこない。建物をぐるりと回ってみたが、どの窓にも人の姿はなかった。表に回ると、門を守るセルセト兵の背中が見えたので、そっと後ずさった。
 ミハルが突然走り出した。待ってと叫びたいのを堪え、ペシュミンも後を追う。ミハルは物見櫓の下で足を止めた。梯子を掴み、猛然と上り始める。
「どうしたの?」
 櫓の上に立つと、夏の夕日が顔を焼いた。ペシュミンは細めた目で、凍りついたように立ち尽くすミハルの姿を見る。
「どうしたの? ねえ……」
 ペシュミンはミハルと同じ方向に目をやって、同じ光景を見た。
 カルプセスを囲む壁の上に、人々が立っている。きらきらと光っているのは、鎧が夕日を跳ね返すからだ。セルセトの兵士達だ。それだけではない。ペシュミンは目を凝らす。
 壁の上で夕日を浴びる顔の中には、角ばった輪郭と鷲鼻を持つ、グロズナの顔が多数見受けられた。
 そして、壁の上には何十という数の木の棒が立てられていた。
 グロズナたちが抵抗しながら棒に縛られていく。
「おじさん」
 ミハルが声をあげた。ペシュミンは壁の上のグロズナたちの中からルドガンを探そうとしたが、突如、冷たい物で目を覆われた。
 ペシュミンは冷たい物を押しのけ、怯えながら振り返る。
 木兵が立っていた。くり抜かれて作られた右目から蜂が黄色い頭を出し、触角をそよがせながら、ペシュミンを見つめている。
 そして、木でできた人差し指を立てると、同じようにくり抜かれて作られた口に当てた。



[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ