意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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だとペシュミンは思った。ペシュミンはやはり空腹だった。そしてやはりそれを言い出せなかった。
階下からざわめきが立ち上ってくる。
「少し様子を見てくるわ」
ナザエが腰を上げる。
「ここにいて。動いちゃ駄目よ」
母親が廊下の角を曲がり消えると、入れ違うように若い女性神官が小走りでやって来た。神官はいきなりミハルの手首を掴み、立ち上がらせた。
「待って!」
ミハルは立ち上がらされ、どこかに手を引かれていく。恐怖が滲む顔で振り返るミハルの後を、ペシュミンは追った。
「どこに行くの? ミハル、ねえ、神官さんどうしたの?」
女性神官はミハルを三階に連れて行き、長机と椅子の他何もない、小さな部屋に通した。ドアを閉め、ミハルを抱きしめると、続けてついて来たペシュミンを抱きしめた。
「あなたはここにいるの。絶対に出ては駄目」
と、ミハルに言い、今度はペシュミンと向き合う。
「いい? あなたは絶対……」
神官は声を詰まらせた。
「この部屋の事を人に言っては駄目よ。お友達やグロズナの人がどこにいるか大人の人に聞かれても、絶対に言っちゃ駄目。お姉さんと約束できる?」
ペシュミンはわけもわからぬまま、うんと頷いた。
「待って、神官さん。僕のおじさんが僕を迎えに来るよ。僕、待ってろって――」
神官は、何かを堪えるような声を漏らした。顔を引き攣らせ、ぎこちない笑みを作る。
「もし君のおじさんが戻って来るような事があれば、私が教えるから。いいわね」
ペシュミンは元通り二階の廊下に戻されて、一人きりになった。ナザエは戻って来ない。
様子を見に行くことにした。
ナザエは混雑する一階の礼拝所の片隅で、セルセトの兵士を相手に何かを話していた。
「ママ?」
呼びかけると、すぐに話を中断してペシュミンの前に立ち、両肩に手を置いて、膝を屈めた。
「ペシュミン、ミハルと一緒じゃないの? あの子はどこにいるの?」
問いかけるナザエの表情が、不意に恐ろしく感じられた。
「知らない!」
ペシュミンは咄嗟に答える。ナザエの表情は恐ろしいままで、ペシュミンの言葉を信じていない事が伝わってきた。ペシュミンは言葉を繋げた。
「えっとね、さっきね、お外に出て行ったの」
「……そう」
ナザエはペシュミンを信じる事にしたようだが、顔には落胆と気疲れが、深く刻まれていた。
二階への階段に続く廊下に戻ると、そこにミハルが立っていた。ミハルは青白い顔をして、唇に手を当てて黙るよう合図すると、ペシュミンの手を引っ張って、神殿の裏口に連れて行った。
「何だかおかしいよ!」
裏庭に出て、ミハルは泣き出しそうな表情で叫んだ。
「ミハル、どうしたの? 何がおかしいの?」
「だって、だって、おじさんの帰りが遅いし……『グロズナはリデルの神
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