意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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たようなものだ。だが敵はカルプセス市内にも魔術師がいる事に、今、気付いた。魔力の道を細く絞って開き、先ほどよりも慎重に、敵の魔術師の気配を探り始める。ここから先は、いち早く敵の居場所を見つけて攻撃する、速さの戦いだ。
嫌な感覚が肌を包み、背筋が凍りつく。見つかった。ベリルは守護石を握りしめ、全方位に緑の界の力を発散した。
日が上る方向から、矢のように向けられる紫紺界の力を感じる。掌中の石の力を借り、緑の界の力で押し返した。
ぶつかりあう力の渦が、凄まじい頭痛を引き起こした。地上からの敵の悲鳴とナエーズ語の悪態が集中力を削ぐ。紫紺界は腐術の領域を支配する。渦の中で高密度の魔力が質量を持ち、雫となって地上に降り注ぐ。雫を浴びた敵兵の皮膚が黒く腐り、目玉が飛び出して落ちる。そうして、腐敗した黒い水たまりと、鎧があとに残る。額の内側にその光景が見えた。
ありったけの呪詛をこめて、ついに力を押し返した。額が激しく疼き、中年のグロズナの魔術師、心臓を緑の界の魔力に貫かれ、悶絶して死んでいく魔術師の姿を幻視した。
集中力が切れた。緑の界との接続が切れる。同時に五感が失われ、無明無音に陥った。ベリルは胸壁に手をつき、その触感を頼りに五感の回復を急いだ。酷く汗をかいている。徐々に聴力が戻り、市内でも混乱が起きていると把握する。ロロノイが何か喋りながら、肩を揺さぶっている。目を開けたが、世界は黒い霧がかかったように不鮮明だ。
肩を支えられ、葡萄酒入りの革袋を口に押しつけられた。それを呷ると全身の血が巡り、ゆっくりと視界に色が戻ってきた。
同時に、殺意に満ちた力が地上から飛んできた。
それがどの界の力か、分析する間もなかった。咄嗟に緑の界の通路を開く。頭の後ろの高い所から馴染みある力が溢れ、ベリルとロロノイを包んだ。
結界は敵の力を削いだが、集中力を欠いたベリルには防ぎきれなかった。結界に亀裂が入り、頭の中の血管が切れるような嫌な感覚を得た直後には、凄まじい力によって弾き飛ばされていた。
死んだな、とベリルは思った。敵の攻撃の致命的な勢いは削いだが、墜死は免れない。足許で、壁の石組が崩れるのを感じた。弾き飛ばされたロロノイの姿が、一瞬目に見え、遠ざかる。
ああ。
死ぬ。
意識が途切れた。
「起きろ!」
誰かが頬を叩いた。気が付くと胸倉を掴まれ、街を囲む壁の上に膝立ちの姿勢でいた。
男の足が見えた。
その向こうには分断され、崩れた壁が見える。
ベリルは少しずつ目線を上げ、男の顔を見る。
顔の特徴で、セルセト人だとわかった。浅黒い肌に黒髪。歳は中年、四十前後といったところだ。
「あんた、魔術師かい?」
ベリルは意識朦朧としたまま尋ねた。急に手を放され、床に倒れこむ。
「加勢してやる」
床に手
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