彼らの黒の想い方
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友だと思っていた。
裏切りを信じたくなどなかった。けれども信じるしかなくなった。ならせめて、前を向いて笑顔で語り合いたい。友達を責め立てる怨嗟の感情を持つ事など、生来素直な猪々子には出来なかった。
「やっほー猪々子。残念だけどそれは無いんだなー、これが」
割り切れている猪々子にやっぱりかと思いながら、明は軽く話し掛けた。
「ん、分かってた。言ってみただけだ」
「そっか。ってことは情報は入ってるんだね?」
「ああ、お前んとこの兵士が泣きながら話してくれたから」
「そいつちゃんと殺した?」
「いいや、陽武の陣の檻の中」
「相変わらず甘いね」
「お前の方こそ」
曹操軍の兵士も、袁紹軍の兵士も出る事は無い静かな空間。今が追撃戦である事など嘘のような会話。
「明……お前さ、斗詩を殺したいか?」
猪々子の声は不安に彩られ、それを受けた明はきょとんとした後に……にへら、と笑った。
「めんどくさいから殺したくないね」
「……ホントに?」
「殺さない理由もある。教えて欲しかったら降参してね♪」
「それは出来ねぇな。あたいもお前と一緒で命賭けて守りたいもんがあるし」
にやりと笑ったのは二人共。
明が怨嗟を宿していない事が、猪々子にとっては何よりの救いで。
猪々子が相変わらず真っ直ぐなだけで、明にとっては安息だった。
互いの心が読み取れる。もう少し早くこんな関係になりたかったなと、二人共が思っていた。
秋斗は明の隣で、猪々子の後ろを見つめていた。
視線が自分に向いてない事に気付いた猪々子が、今度は彼に剣を突き付けた。
「へっ……会いたかったぜ、黒麒麟」
「俺に? なんで?」
――黒麒麟と呼んだからには前の俺になんか言う事でもあるのか。
キョトンとして問いかける秋斗に向けて、猪々子は懐かしむように目を細めた。
「……“乱世に華を、世に平穏を”」
何故知ってる、とは言うまい。彼女が徐州で追撃を行ったと彼も聞いている。それなら、徐晃隊最精鋭の最期を看取ったのだと容易に分かる。
「あんたのとこの部隊、かっちょいい死に様だったよ。橋を燃やして、死守して、守り抜いてさ……生きろ、見逃してやるって言っても……意地張って死にやがった」
ズキリ……と彼の頭と胸が痛んだ。
彼らの話を聞く度、見る度に、心の中が渦巻いて仕方ない。
「あんたにそれだけは伝えたかったんだ。徐晃隊は遣り切ったんだって、最後に看取ったあたいが、あんたに想いを届けてやりたかったんだ」
強い輝きを宿す瞳が彼を射抜く。真っ直ぐ、純粋なその光は、彼の知らぬ彼らへの尊敬の念を表して。
嗚呼、と心の中で深い嘆息を吐き出した。
――哀しいなぁ。俺は……そいつらの事
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