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乱世の確率事象改変
彼らの黒の想い方
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子供のような感想が浮かんだ。

「……いいえ」

 戦をしている。堂々と戦わずとも、勝てばいいのだ。確かにそれは正しいし、当たり前の事だろう。
 だまし討ち……それが彼の取った選択。曹操軍としては、したことが無い策だ。
 期待していた心が少しばかり落胆していた。これはわたしのわがまま、なんだろう。正々堂々と力をぶつけ合うやり方を求めてしまう自分は、戦に綺麗さを求めてしまう自分は……間違いなんだろうか。
 人の命を考えるのなら最善のはずなのに。

 しばらくして、金属音が幾重も鳴った。見れば顔良の率いていた部隊は戦うのを辞めていた。
 剣を投げ捨てるモノ。槍を地に叩きつけるモノ。力無くするりと武器を零すモノ。急いで手から武器を落とすモノ。口惜しさと寂寥を表情に浮かべている者達と、安堵に包まれている者達が入り混じっている。
 何故こんなに早く……と疑問が湧いた。聞いてみよう。

「敵将を討ち取られても戦えるはずなのに、敵は何故戦うのを辞めたのでしょうか?」

 この戦いが官渡の最後なのだから抗って当然だろうに。わたし達の兵ならきっと戦う事を選ぶ。

「……人質だよ。明から聞いたが、顔良の部隊は優しい奴等が多いんだと。どっちみち抗うなら皆殺しの戦場になっちまってるって紅揚羽と張コウ隊を見てれば理解出来るだろうし、顔良の無事を約束するから戦うのを辞めろと言えば心に迷いが生まれる。
 将の命を優先するか袁家の為を優先するかは賭けだったが……もう兵士達も、袁家が負けるって分かっちまってんだろうな」

 命賭け死して尚、主の為に抗う誇り高さを持つべし……顔良の育てた兵士達はそういう風には考えられないという事か。
 ああ、そうだ。顔良は延津で生きろと声を上げたんだった。兵士達の心にはその姿が深く根付いているはず。
 だからきっとそれも、この状況を作る切片として加えていたのだ。紅揚羽もあの延津に居たのだから、それを確認して計算に含まない彼では無い。
 其処まで考えてブルリと寒気が一つ。

――人心掌握が段違い過ぎる。この人は……将と言うよりも軍師に近いのではないのか?

 人質、だまし討ち、勝ちと効率の為にどんな手段でも用いる。ある程度の線引きは越えそうにないが、きっと彼は軍師としても戦える。善悪ではなく利害にこそ重きを置いて計算する彼は、軍師の思考に近しいのだろう。
 いや……正しくない。元々の彼は華琳様が欲しがる程の逸材。ある意味で劉備軍を影で動かしていたのだ。黒麒麟の身体は“彼の為の軍”だ。なら、彼は華琳様と同じで……。

 思考に潜り続け見つめていると、彼がチラと横目で見てきた。

「で、だ。お前さんにして貰いたい事があるんだが、いいか?」

 ハッとして、何故自分を呼んだのかをこれから話されるのだと
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