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【銀桜】4.スタンド温泉篇
第5話「旅行先ではだいたいケンカする」
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 彼女は他人を見下すでもなく、悲しいような、孤独な瞳をしていた。
 ただそう見えただけかもしれない。
 だが、自然と言葉も掴む力もなくなってしまう。双葉も何も言わないまま部屋へ戻って行った。
 このまま追いかけるべきか。しかし、重い何かを含んだあの瞳に何て言えばいいのか。
 怒りもすっかり失せてしまって、中々言葉が見つからない。
【喧嘩でもしたの?】
「るっせーな」
 いつの間にか後ろにいたレイに苛立った声を吐く。
 このままこの幽霊(スタンド)と一緒にいても空気が悪くなるだけだ、と銀時は裏方に戻ろうとした。
【ちょいと待ちな】
 レイに呼び止められ、銀時は不満な(つら)をしながら振り向いた。
【これ】
 無愛想なレイが手にするのはトランプ。
 身に覚えのないものを差し出され、銀時は首を傾げた。
「なんだよ。これで仲直りしろってか」
【馬鹿だね。あの()の荷物から落ちてたのだよ】
「双葉の……?」
 レイが言うことに銀時は耳を疑った。
 他人と親しむことをあまりしない双葉が遊び道具を持ってきていたことが信じられない。
 けれどトランプはオンボロ旅館には似合わない真新しい品物だ。レイが言ってることは嘘ではなさそうだ。
【あの娘、ほんとはあんた達と一緒に楽しみたかったんじゃないの?】
 レイの憶測は銀時に過去の記憶を蘇らせた。
 若かりし頃の銀時とかつての旧友たち、そして双葉は共に泥にまみれ血にまみれ、戦場を駆け抜けていた。それが彼らの『青春』だった。
 現代(いま)でいえば友人と話したり遊んだり、女の子なら化粧や恋愛話で楽しむような年頃だっただろう。だがそんな甘ったるい『青春』などなかった。
 無論、布団の中で友達と朝までお喋りしたりトランプしたりと、そんな修学旅行のような思い出もない。
 しかし体験してないからこそ、双葉は密かに望んでいるのかもしれない。
 だとしたら今回の旅行を一番楽しみにしてたのは、双葉だったんじゃないだろうか。
 鬼兵隊にいた頃の話をあまり聞かないが、おそらくあの中で仲間とたわむれる事はなかった筈だ。
 新八と神楽、そしてかぶき町の人々に囲まれた自分と違って妹はいつも孤独の中に……。
 ずっと追い求めているのかもしれない。『青春』を戦場で過ごした彼女だからこそ――
【あんた謝ってきな】
「冗談じゃねぇ。なんで俺が……」
 口を尖らせる銀時にレイは軽く溜息をついた。
【わかってないね。こういうのは兄貴が素直に謝っとくもんさ】
 反射的に拒んだものの、銀時には後悔に似た念があった。

 戦場に立つことを自ら望んだ妹。日々天人を斬り殺し、いつしか『銀桜』と呼ばれ血にまみれた。
 それでも仲間の『笑顔』を護るために戦っていた妹を止めようとしなかった。
 戦いの中で
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