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ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第1章 群像のフーガ  2022/11
9話 頼りない壁
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が本来あってはならない事態でもある。《ディアベルを見殺しにしたプレイヤー》として、キリトがしたように俺に憎しみを向けられるように仕向けるべきだった。だが、前に出ることが出来なかった。押し寄せる害意からヒヨリを守る自信がなかった。ヒヨリに背中を押してもらえなければ、俺は未だに燻っていたかも知れない。


「でも、燐ちゃんが怒鳴ったからみんなちょっと反省してたみたいだったよ? ………怖かったけど」
「まあ、さっきのリンには迫力があったな………」
「あれは自分でも驚いている」


 脳内で自責しつつ、口では他愛もない会話を交わしながら階段を登り切ると、再び扉が現れた。
 今度はキリトが押し開けると、視界が絶景に覆われる。様々な地形が複合した第一層とは異なり、テーブル状の岩山が端から端まで連なっている。今いる扉の位置でさえ岩山の中腹だ。山の上部に茂る草原を大型の野牛型モンスターがゆったりと歩いている。
 そして、第二層主街区である《ウルバス》はこの地点からおよそ一キロメートルほど先にあるテーブルマウンテンを掘り抜いて築かれた街だ。そこの中央広場にある《転移門》に触れれば施設として有効化(アクティベート)され、第一層のはじまりの街との道程(みちのり)を省いた往来が可能となる。だが、この記念すべき偉業はLAを獲得した英雄にでもくれてやるとしよう。


「さて、ヒヨリ。街に行って宿を取ろうか」
「うん! 広くて、お風呂が広くて、お店が近いところがいいな!」
「欲張ったな………あるにはあるけど………で、キリトはどうする?」
「俺はもう少しだけ、ここでゆっくりするよ」


 そう言いながら、キリトはテラスの端に腰を下ろした。
 どうやら、このPTからも離脱する頃合いらしい。ヒヨリが――――自分は簡単操作で済むように頼み込みつつ――――手早くキリトとフレンド登録を済ませるのを確認して、階段を下ってフィールドに降り立つ。

 第一層ボス攻略。レイドという集団の中に身を置いて、様々なものを見た。
 新規プレイヤーとベータテスターとの間に生じた軋轢や偏見。欲望と人の弱さ。しかし、その中でも危険を顧みずに戦おうとする者の勇気もあって、なにより傍で支えてくれる相棒の存在を強く感じることができた。それらの要素が綯い交ぜになったそれを形容する言葉を俺の薄っぺらい人生観や語彙力では導き出すことは到底できない。ただ、漠然とだが、それが《人の本質》を投影したものなのではないかと思った。
 そして、その中で行動した者たちは、それぞれの見る現実に基づいて動いたのであって、誰が間違っているとか、正しいとか、そんな尺度で決められるようなものなど何一つないのだと思う。そこに他者との差は生じない。いや、違い過ぎて比較など出来ないのだと………



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