第1章 群像のフーガ 2022/11
9話 頼りない壁
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ないか?本当におめでたい頭してるんだな。元ベータテスター? ………俺を、あんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな」
「素人、だと?」
「いいか、よく思い出せよ。SAOのCBTはとんでもない倍率の抽選だったんだぜ。受かった千人のうち、本物のMMOゲーマーは何人いたと思う。ほとんどはレベリングも知らないような初心者だったよ。今のアンタ達の方がまだしもマシさ」
レイドメンバー全員が沈黙する。
この場に居合わせた全員の認識が崩れようとしているのだ。それまで膨大な情報と莫大なリソースを独占していたはずの悪が、その概念が、未知のスキルを経験を以て看破したという一人のプレイヤーが口にする言葉で崩されようとしている。反論も否定もできない。それほどに新規プレイヤーはベータテスターを知らなかったし、そう思い込んできたのだから。
キリトのこの発言は、恐らくベータテスターに対する新規プレイヤーからの偏見を少なからず取り払うことだろう。だが、それは根絶ではなく集積だ。自身一点にのみ憎悪を向けて、他のベータテスターを救おうとしている。新規プレイヤーのヘイトを全て背負う覚悟で、壁役に徹するつもりだ。
本当にそれでいいのかと、自問自答を脳内で繰り返す。キリトだけに背負わせて、それでいいのか。だが、キリトの肩を持てば、今後一切どの集団にも属することはできなくなる。圏外における闇討ちを受ける可能性だって本格的に考慮せざるを得なくなる。そうなれば、ヒヨリはどうなる?
「――――でも、俺はあんな奴等とは違う」
「俺はベータテスト中に、他の誰も到達できなかった層まで登った。ボスの刀スキルを知っていたのは、ずっと上の層で刀を使うMOBと散々戦ったからだ。他にも色々知ってるぜ、アルゴなんか問題にならないくらいにな」
「…………なんだよ、それ………」
誰かが掠れ声で呟くと、そこから一斉に糾弾が湧き起こった。ディアベルを見殺しにしたという名目は既になく、ただキリトに感じた得体の知れない感情を吐き出すように、ただひたすらに罵声と暴言と蔑称を述べ猛る。三十人を超える人数の声に晒されたキリトを呆然と見ていると、ヒヨリの手が右のグローブに重ねられている事に、そして、俺の手がいつの間にか爪が食い込むくらいに拳が握っていることに気付いた。
「大丈夫だよ。私はいつでも燐ちゃんと戦うから」
「………ありがとう」
流石は幼馴染といったところか。付き合いが長いだけに心情など容易く読み通されてしまう。感心しながらも単調に礼だけ告げ、迷いを払って一歩前に出る。
投げかけられる蔑称が混ざり合い、奇妙な単語を形作るのを耳にしながら、ありったけの肺活量を振り絞って叫んだ。
「
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