第1章 群像のフーガ 2022/11
9話 頼りない壁
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やはり不確定要素の多い現状において彼等だけ向かわせるのは、PTメンバーとして心苦しい。最後まで背中を守るのも俺達の責務だろう。
「ヒヨリ、あの二人を援護するぞ」
「分かったよ!」
ここまでの戦闘を経ても変わらず元気に頷くヒヨリに思わず笑みが零れるが、それもすぐに消して右手の剣を引き、獣の如く伏せる姿勢を構える。視線の先には、エギル達のソードスキルを耐え抜いたコボルド王が鋭く吠え、野太刀の刃を指先でなぞりながら胸の前で水平に構える動作を行っている。これまでの、それこそベータテスト時代の記憶を総動員しても該当するモーションは思い浮かばない。しかし、発動に時間の要するモーションというだけで俺の勝ちだ。
「貰ったァ!!」
薄橙の光に包まれ、地面を蹴ると同時に右手を突き出す。砲弾と化した全身は、B隊の合間を縫ってコボルド王の右の大腿部を深く突き刺し、その衝突のインパクトでスキルを強引にキャンセルさせる。
次いで二人のフェンサーが両の脇腹に《リニアー》を叩き込み、そのタイミングでレイジハウルを引き抜いてヒヨリと同時に後退すると、遅れてキリトがアニールブレードに蒼の光芒を纏わせながら右の肩口から腹までを斬り裂き――――
「お……おおおおおッ!!」
気勢とともに剣閃が跳ね上がり、左の肩口から抜けてV字の軌跡を刻む。片手剣二連撃技《バーチカル・アーク》――――
二連撃技を余すことなく受けたコボルド王は後方へとよろめき、天井に向けて細く高く吠えると、その巨体にヒビが入る。次いで両手から力が抜けて野太刀が零れ落ち、第一層フロアボス《イルファング・ザ・コボルドロード》はガラス片となって散っていった。
ボス部屋の光源であった松明の火も色彩を変え、フィールドを覆っていた薄闇も払われる。しかし、ボスは倒されたにも関わらず誰一人として声をあげるものはいなかった。後方に取り残されたE隊G隊は立ち尽くし、A隊C隊D隊F隊は回復を続行し、最後に前線を維持してくれていたB隊はその場に腰を落として周囲を呆然と見回し、そしてLAを決めたキリトは最後の一撃のまま右手の剣を上げた姿勢で止まっている。
俺は剣を鞘に納めてヒヨリに向き直った。未だにボスがいた場所を見つめているが、こちらの視線に気づくと呆けたような表情で顔を向けてくる。
「終わったの………?」
「ああ、お疲れ様」
俺の言葉でようやくヒヨリも状況を認識し、システムが見計らったかのように獲得経験値や配分されたコルなんかがメッセージとして表示され、戦いの終わりを告げた。同じものを見たレイドメンバー全員が歓声を弾けさせる。
思い思いの方法で喜ぶプレイヤーの向こうで、キリトとアスナの元にエギルが歩み寄り、労っているような会話をしている。
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