意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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ろ!」
カルプセスを守るセルセトの兵が、拙いナエーズの言葉で叫んでいた。
「繰り返す、兵役可能年齢のペニェフの男は表通りに出ろ!」
ナザエが座りこみ、ペシュミンの体を抱いた。
「女と子供は家にいろ! 男だけだ! グロズナも家に戻れ!」
ペシュミンは母の震えを体中で感じた。若い女が泣き叫びながら恋人にしがみついた。男も恋人を抱き返そうとしたが、兵士三人がかりに引き裂かれ、男だけ連れて行かれるのをペシュミンは見た。青年が母親を固く抱きしめ、同じく兵士に半ば強引に連れて行かれるのを見た。ナザエが目を塞いだ。それでも事態は変わらなかった。
「議員の奴らは全員カルプセスを出るらしいぞ。家族連れでだ」
カルプセスの市民が囁きかわしている。
「畜生、奴ら自分だけ安全な所に逃げる気かよ」
「やめてくれ! 妻と娘も連れて行かせてくれ! 頼む!」
中年の父親の悲痛な叫びが鼓膜を打つ。別の誰かが叫ぶ。
「あんた達がいなくなったら、誰がカルプセスを守るんだ!」
いなくなる。ペシュミンは理解する。セルセトの兵士がカルプセスからいなくなると。
「見捨てられた」
か細い女の声が言った。声はそのまま嗚咽に変わって、他の怒号や喧騒に、かき消されていった。
ああ。ペシュミンは理解する。
ああ――見捨てられた、と。
その本当の意味もわからぬまま。
※
暮れなずむ都市の騒乱の中を、ラプサーラはロロノイに手を引かれ急いだ。表通りにはペニェフの男たちが集められ、家族や恋人との別れを拒む者があれば、セルセトの兵士たちが強引に引き離した。何が起きているのか、ロロノイは急ぐばかりで説明しようともしない。
戦勝広場には備蓄庫から出された食料が積み上げられ、それを飢えた市民たちが遠巻きに見ていた。兵士たちは急ぎ荷造りをしている。そして、戦勝広場から東一番通りへと、ペニェフの男たちの行列が作られていた。ロロノイは行列を遡り始める。ラプサーラは荷袋を抱えて空を見上げた。茜から紫へと変わりつつある空に、明星が光っていた。
「兄さん」
ラプサーラは焦燥にかられて口を開く。
「兄さん!」
答えない。
「どこに行くというの?」
ロロノイは一瞬だけ振り向いた。目は殺気立っていた。
「北の港町の新シュトラトだ。安全地帯宣言が出てる。セルセトの治安維持が健全に機能しているのはそこだけだ。カルプセスに留まるより新シュトラトに逃げる方が生き残る可能性が高い」
「全員が連れて行かれるわけではないようね」
「さすがに守りきれん。民間人の中で連れて行けるのは兵役年齢に達した男性だけだ。そうでなきゃ行軍に耐えられない。あとは医業従事者、治世関係者とその家族。その中には女性や子供もいる。ラプサーラ、お前は耐えられるな」
「そうでない人
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