意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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らいの歳に見えた。少年は小首を傾げて微笑んでいる。
「ミハル、おいで」
少年はグロズナの男のもとに駆けて行った。
「甥のミハルです、どうも故郷がきな臭くなったもんで、弟夫婦がうちに預けに来ましてね」
ペシュミンもおずおずと、母親に近付いていった。
「娘のペシュミンです」
「かわいらしい子だねえ。幾つだい? ん?」
男が顔を寄せてくる。ペシュミンは身を竦めたが、ナザエに背中をつつかれて、「五歳」と答えた。
「ほぉう、じゃ、うちのミハルと同い年だ」
大きな手が伸びてきて、その手に頭を撫でられた。優しい手だった。ミハルという少年と目が合った。やはり彼は微笑んでいた。ペシュミンは少しだけ緊張を解き、微笑み返した。
「カルプセスには、お二人で?」
「いえ、村の人々と。でもカルプセスに入った時点で散り散りになってしまって……」
「そうか。それは心細い」
男は赤珊瑚の首飾りと、幾つかの花の種を購入すると言った。ナザエが目を瞠った。
「そんなに買ってくださるのですか……ありがとうございます」
「花はミハルに世話をさせましょう」
嬉しさよりも、むしろ困惑を示すナザエに男は微笑んだ。
「窓辺にこの種を植えた鉢を出しておきましょう。戦勝広場から西三番通りに入って二軒目の家です。ああ、そうそう、私はルドガンと言いましてね」
手を差し出され、ナザエは反射的に握手をする。
「何かお困りの事があれば、うちに来るといいですよ。お嬢ちゃん、よかったらうちに来て、ミハルと遊んでやってくれるかい?」
ペシュミンはミハルを見た。少年はにこにこ笑っている。
「うん!」
代金を受け取った後、ナザエがルドガンを呼び止めた。
「あの、何故そんなに……」
「民族が違う。ただそれだけで憎みあう」
ルドガンはミハルの肩に手を置きながら、尋ねられる内容を先読みし答えた。
「無意味な事だと思いませんか?」
その日、市が閉まるまで、ペシュミンはナザエと一緒にいた。母親は露店そっちのけで、暗い目をしてうなだれているだけだった。
夕日が自由市の通りを金色に染める頃、ナザエはその日の寝床を定めるべく裏通りを彷徨っていた。ペシュミンはあくびをしながら手を引かれるまま歩いていた。売り上げのおかげで、久々に屋根のある場所で眠れそうだった。淡い期待は、表通りの喧騒が高まり、それが日常の聞きなれた範囲を超えてなお高まりつつある事に気付いて破られた。
ナザエが足を止めた。ペシュミンは母親の顔を見上げた。怒号や叫び声、女の泣き喚く声や、馬の蹄の音、武装した兵士が歩く度に立てる金属的な物音が、喧騒の正体であった。小さな手が痛いほど握りしめられた。ナザエは足早に表通りに近付いて、建物の影から様子を窺った。
「兵役可能年齢のペニェフの男性は全員表通りに出
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