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Lirica(リリカ)
意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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ーラにも思えなかった。
「その言に偽りはないな」
「我が神レレナにかけて」
 自分が行った占いの内容に絶望を感じながら、ラプサーラは答えた。
「俺は特定の神を崇めない」
 デルレイがテーブルの向こうから身を乗り出してきた。
「君がレレナの名にかけて誓ったところで、俺にはその重みがわからん」
「レレナへの信仰は、セルセト本国より逃れ、ナエーズへの入植を選んだ私と兄の心を支えました。レレナは我が命であり、我が拠り所です」
「なるほど、宗教は人を幸せにする」
 デルレイは歪んだ笑みを浮かべた。
「不幸になった人間は、もっと多いがな」
 ラプサーラは、それを彼なりのユーモアであると解釈する事にした。デルレイが席を立ち、兄と魔術師も続いた。
「カルプセスは陥落するのですか」
 戸口まで三人を見送りに行きながら、ラプサーラは尋ねた。
「神は人を救うかもしれんな」
 それが特務治安隊長の答えだった。
「だが、直接救いはしない」

 星占を行った後はいつも、酷い疲労と眠気に襲われる。昼下がり、ラプサーラはまどろみ夢を見た。
 夢の中でラプサーラは、牛飼いになっていた。牛たちが草原で草を()み、中空で風が帽子を運ぶ午後、牛飼いは風の中で空気の湿りを感じている。眼前で木が燃えている。影のごとく朧な灰色の木と、黒ずんだ炎。背後の山々は眉間に怒りを湛え、牛飼いを睨みつける。平野の地霊は山の地霊を恐れ、静かに囁き合う。
 雨が降り始めた。嵐が来る。牛飼いは牛を連れて、家に帰ろうとする。生ぬるい雨、黒い雨が、肌を叩き流れ落ちる。牛飼いは歩く。家を探す。やがて彼は断崖に出て、雨が平地で、家も人も家畜もどろどろに溶かしているのを見る。
 ラプサーラは目覚めた。部屋は暗く、暮れかけている。喧騒が間近にあり、通りに怒号が飛び交っていた。
 何事かと飛び起きて、髪をまとめた。上着を羽織り、階段を駆け下りた。兄に会わなければならないと、唐突に思った。間もなく自分はまた兄と会う運命だと。
 戸を開けた。果たしてそこにロロノイが立っていた。ロロノイは家の戸を叩く前に妹が飛び出してきた事で、驚き目を丸くしたが、すぐに表情を引き締めて言った。
「すぐに支度をしろ」
「兄さん」
「カルプセスを出るぞ」
 その時ラプサーラは、ようやく、喧騒の意味を知る。

 ※

 ペニェフの娘ペシュミンは、カルプス川下流の村で生まれ、五歳までそこに住んだ。ある日隣人たちと荷物をまとめて家を出るまでは。父親はいつの間にかいなくなっていた。母親は父の為に祈っている。
 カルプセスで宿無しの身となっても、ペシュミンの暮らしは変わらなかった。変わった事と言えば、花を納めるルフマンの教会が、田舎の質素な礼拝所から、都市の壮麗な神殿になった点くらいであった。神殿の長ル
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