意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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様々な情報を言語ならざる言葉で囁きだす。ラプサーラは目を閉じて、額に意識を集中した。
「木が見えます。燃えている木が」
沈黙。
「それは何の象徴だ?」
デルレイが尋ねた。ラプサーラは目を開ける。
肥沃な土と厳しくも豊かな自然に恵まれた島、ナエーズ。この地では、狩人の神リデルを奉じる山岳民族グロズナと、根と伏流の神ルフマンを奉じる農耕民族ペニェフが、有史以来殺し合い、和睦を結び、また殺し合うという事を、とめどなく繰り返していた。
両民族の対立を侵略という形で収めたのが、海を挟んだ大国、セルセト国であった。
圧倒的な軍事力の差を見せつけられたペニェフは早くにセルセトに恭順を示し、数の上で多数を占めるグロズナは根強い抵抗を示した。
ナエーズ全土がセルセト国によって平定され、多くのセルセト人が入植した後、セルセト人の有力者たちはペニェフたちを優先的に保護した。
グロズナたちは、武器を捨ててセルセトの発展した文化が流入する町の生活を選ぶ者と、厳しい山岳地帯に帰って行く者とに分かたれた。山岳地帯に帰った者たちは、民族の悲願を忘却する事を良しとしなかったのだ。
すなわち、自分たちの国を持つ事を。
ラプサーラの鼻腔を薫香が撫でた。生木のはぜる音が、微かに聞こえてくる。兄も、魔術師も、将校も、それらを感じていない。
「この匂い――燃えている木は竜香木です。包みこむ火は緋色。竜香木は享楽の神ギャヴァン、緋色の炎は戦火の神ヘブの象徴」
ラプサーラは占星符を切り、世界図上のセルセト国を囲む形で円く広げた。その頂点の符を捲る。死の神ネメスの符であった。
「死の女神ネメスが頂点にあるは、暗雲たちこめ草木朽ち、多くの命が損なわれる予兆」
一番下の符を捲る。その位置には最高神レレナの符があった。
「良くありませんね」
眉を顰めながら、左右の符を捲った。左はルフマン、右は竈の神コーンであった。
「大いなる災いによって根は枯れ、水が不足するでしょう。竈の火が絶え、餓死者と、冬には凍死者が出ます。救いと言えるのは、疫病の神ベナンが休息期にあり、動きを見せない事。そして友情と盟約の神ダレンと航行の神パンネンが、この最下辺の一円で力を増す事。同盟国タイタスに逃れれば、民は受け入れられるでしょう」
「王宮の動きはわかるか?」
デルレイに言われ、左右の端の符を捲った。まさしくギャヴァンとヘブが、その位置を占めていた。
「……セルセト本国において、享楽の神ギャヴァンは第四王子が、戦火の神ヘブは第六王子が奉じる神。そして両王子の王位継承争いにより、本国は大変な混乱にあると聞き及びます。あなた方は、何を聞き出そうと言うのです?」
星図への集中を解いて聞くと、デルレイは渋い顔をした。ロロノイが目線をくれる。ラプサーラは顔を背けた。
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