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Lirica(リリカ)
王の荒野の王国――木相におけるセルセト―― 
―8―
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、枕に顔をうずめた。
「そこに石相などなかった」
「では何が」
 ぱちりと瞼の闇に光が弾け、ニブレットは目を開けた。そして、うつ伏せの姿勢から体を起こすと、オリアナの顎に指をかけ、顔の前に引き寄せた。
「オリアナ」
「はい」
 侍女の目に緊張が漲る。
「……知らぬ方がよい事もある」
 怯えた顔はニブレットの嗜虐心を刺激し、僅かに肉欲を駆り立てたが、それだけだった。無力感と無常感が、たちまち胸に満ちてきて、オリアナから手を放し、元通り横たわった。
 このニブレットも、このオリアナも、儚いものだとニブレットは思った。様々な命が積み重なって死んで層となり、そんな階層が重なった先に一体何がある? 何に向かって、人間は命を次の世代に繋いでいるのだ? 命は、人間という種は、何を目指し、どのような結末に向かっているのだ?
 そんな疑問を抱こうとも、ニブレットが答えを知る事はない。知る事はないのだ。
「何もかもが変わっていく」
「はい」
 オリアナが香油の壺をかき混ぜ、またそれを死せるニブレットの体に擦りこんでいく。
「オリアナ、私は近頃思うのだ。永遠というものに耐えられぬが故、人は数十年で死ぬように出来ているのではないかとな」
「左様でございますか」
 香油を塗るオリアナの指は優しく、その感触に身を委ねながら、ニブレットは目を閉じて、今度こそ深い眠りの中に落ちていった。

 ※

 程なくしてニブレットは戦場に戻った。死から死へ風が吹き、そのさなかの木の葉のように、ニブレットは鮮血を纏い舞った。一度死したニブレットは、漆黒の剣を手に、誰より激しく戦った。ニブレットは死が怖くなかった。自分が何者でもないのなら、死など恐れるに値しない。むしろそれが訪れる日を、気付けば待ち望んでさえいた。このニブレットという自我が消える日を。
 現実感は日に日に薄れ、もはやどれほど人を殺したかわからず、どれほど部下を失ったかわからない。ニブレットはもはや何も感じなかった。ただ、オリアナとの間の恋が消えていく事だけが、彼女を苦悩させた。
 都から遠く離れた戦地で、ニブレットはある覚悟を決めた。月が冷たく満ちる夜だった。彼女は漆黒の剣を血でぬかるむ土に立て、ヘブが呼び声に応じるを待った。黙して待てば、戦火の神は崇拝者の周囲に、濃密な気配で以って現れた。
「我が神よ、戦火の神ヘブの崇拝者ニブレットは、やはり王の荒野にて、既に失われた」
 ニブレットの肉体は傅き、言った。
「私はもはや、この漆黒の剣を持つに(あた)う有能な信徒では御座いませぬ。剣を返上いたします。私を、灼熱の地獄の星へ、あるいは極寒の地獄の星へ、連行し囚えるがよいでしょう。この剣で魂を狩り取り、あなたの膝下に送りこむという約束を、私のほうから(たが)える事になりますゆえ」
「それ
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