王の荒野の王国――木相におけるセルセト――
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、衛兵から受け取ったカンテラを頼りに一歩ずつ闇を歩いた。
「結論から先に言うと」
カルミナは白い息を吐きながら、ニブレットを見ず話した。
「捕らえられたのはレンダイルの弟子だ」
「驚きですね。レンダイルは弟子をとらぬ主義と聞いておりましたが」
「それが、非公認にして唯一の弟子を軍団の作戦行動にも同行させていたというのだ。レンダイルの甥の息子だ」
「それで魔術暗室に。腕のほどは」
「まだわからん。尋問官によれば、相当の術と知識を叩きこまれているそうだから、素質はあるのだろう」
「レンダイルが王の荒野で何を為したか、口を割る気配はありそうですか」
「それがどうも、忘却の術を最後にかけられたようでな」
カルミナは鍵束を手に取り、鳴らした。
「王の荒野の状況を鑑みるに、レンダイルが歌劇に関する何がしかの情報を得た事はまず間違いない。それについては専門の調査団を設け調べている」
「結果が出る見込みは」
「それについて私から言える事はない。個人の見解は控えさせてもらおう」
かつて発相の巫女によって書かれ、第一幕の上演のみで水相を没落せしめた滅びの歌劇。
神々は、第二幕の上演を望んでいると聞く。
その為、発相では役者という名の生贄が未だに神に供されているという。発相はこの木相から遥か遠い。だがレンダイルなら、そこに渉る事も不可能ではないのではないか。発相か、役者か、あるいは第二幕の台本か……そのいずれかの力に触れ、荒野に布陣する兵士たちは皆塩になった。そういう事ではないか。
では、一人だけ死を逃れた弟子とやらは、一体何者なのだ?
カルミナが牢の鉄扉を開けた。二重扉の向こうには、衛兵と囚人の姿があった。
壁に埋めこまれた手錠には、思いのほか小さな手が繋がれていた。痩せた細い手だ。
子供だった。黒髪の少年が、手錠で壁に吊るされている。上半身は裸で、鞭打たれた無数の傷跡があり、深く項垂れているせいで、顔は髪に隠れ見えない。
カルミナが剣を抜き、子供の顎にあてがった。そうして強引に顔を上げさせた。子供は、怯えた目でカルミナを見て、ついでニブレットを見た。
「こちらにあらせられるは我が国の第二王女ニブレット様だ。名乗れ、囚人」
子供は怯え、震えている。黙っている子供の頬を、カルミナが拳で殴った。やめて、と――残酷な事に慣れていない、佐々木綾香の自我が叫んだ。ニブレットは眩暈を感じた。
私は誰?
子供の目から涙が溢れ、頬を伝い落ちた。切れて血が滲む唇を動かし、震える声で名乗った。
「ミューモット」
ニブレットは幼いミューモットに歩み寄った。
「歳は幾つだ」
「九歳――」
「貴様は王の荒野で何を見た?」
問いを受けるや、傷だらけの体が震え、子供は目を見開いて喘ぎだす。そして、激しく身を捩り、喚き
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