【閑話】理屈をこえた 月下香
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、軽い足取りだった
◆
抜け忍達でも体を休める宿というものは数少ない
抜け忍すなわち罪人だ
手配書にのる賞金首も少なくない
そんな彼らが身も心も癒せる場所は、同じ抜け忍が作り出した宿ぐらい
それでも圧倒的に数が少ないのだ
宿を探しだした時にはすでに夜も更け、やけに明るい月が暗闇に浮き出ていた
月見酒というのも悪くはない
誰に言い訳するでもなく、そう考えながら手酌で杯を進める
気配を感じて窓の下を見ると、1人の男が同じように月を眺めていた
近辺では見掛けぬ装束、頭を覆う布
年の頃は男?再不斬?より少し上と見た
どこぞの抜け忍か、特に警戒する事もなく観察する
「良い月だな」
ポツリと、しかし二階にいる再不斬にも聞こえるほどの声で男は呟いた
「・・・月見酒にもってこいだと思わないか」
月を見上げ続ける男に声をかける
「上がってこいよ、酒ぐらいなら出すぜ」
己が今飲んでいる酒瓶を揺らしてみせる
一度だけ男は振り向いて、静かに首を横に振った
「残念だが、禁酒中でな・・・すまない」
そう言って再び月を見上げる男が酷くぼやけた様に見えた
実は幽霊だとかいうオチはないものか
再不斬がそう思うぐらい、男の声は消え入りそうだった
失礼な事を考え黙り込んだ再不斬に何を思ったのか、男は持っていた袋を投げ渡した
一言だけ、詫びだと言って、立ち去っていく
今から仕事だったか
時間が不規則なのは何処の忍びも変わらないものだと暢気に思う
そんな事を考える自分が別人のようにも感じた
霧隠れの鬼人 桃地 再不斬という男はこんな人間だっただろうか
もっと常に殺気だった、殺人狂とも呼ばれたこともある人間だったはずだ
それが今では、見知らぬ男を酒に付き合わそうと声をかけた
以前の自分なら、声をかけられた時に刀を向けるぐらいはするだろう
そうして白に宥められるのだ
平和ボケした考えしか出てこない自分の変わりように眩暈を起こす
自棄になって一気に煽った酒は存外キツく、体が火照る
何時頃からこうなったのだろうとぼやけた頭で考える
過去を思い返して浮かぶのは懐かしいあの顔
思い出すたびに泣きそうになる、たった一人の、自分の道具であった少年
名を呼べば、いつかのように己を呼んで、隣に座っているのではないか
そんな淡い期待を持ってしまう
白が変わり、宗教に拘りだして、己も変わったのだろうか
それとも、白が巫子と呼んだ、あの弟子と関わりだして変わったのか
何度問いかけてみても、何の答も得られぬままま、再不斬はまどろみに落ちていった
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