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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道
第19話 回禄
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心地よく、高さも程よい―――そんな心地よさを感じていた忠亮に既知感(デジャブ)……懐古の感傷が胸を絞めた。

 そんな自分の感傷とは裏腹に、唯依の手に握られた耳かきが右耳に侵入する。

「――ちょっとカサカサというよりはしっとりしてますね。」
「家族以外に耳垢の感想を云われるのは妙な気分だ。」

「あ、あまりしゃべらないで下さい。折角剥がしたのが落ちてしまいます。」
「………」

 耳の中の耳垢を押し込んでしまわないように慎重に掻き出しながら感想を漏らす唯依。
 そんな彼女に一言いうが、彼女からの苦情が上がり沈黙する―――尻に敷かれ始めていた。

(―――)

 それを他者なら不快だとすら感じるが、彼女の言であれば心地好くすらあった。もう二度と会えない前回までの俺達にとって其々の彼女たち。
 時が逆巻いた時点で積み重ねた物は己以外は泡沫へと消え、俺自身もまた自分の記憶とも認識できない記憶――記録に残る残滓へと落ちる。
 今回の己が唯一無二の己であるように、今ここにいる彼女は風化し劣化した知識と化した記憶の中の彼女ではない―――別人なのだ、始まりを同じくしただけの全くの別人。

 だからこそ―――彼女は“今回の俺だけ”の……

 (お前は俺だけの陽だまり……)

 耳朶の安らぎを感じる神経を刺激されたのか、(こうべ)を預ける彼女の温もりによるものか、意識は微睡へと落ちて征く―――……。




「――っと、終わりましたよ……ああ、眠ってしまわれたのですか。」

 吐息で湿らせた綿で雑多な耳垢を掃除すると唯依は自らの膝の上で静かに寝息を立てる青の青年を見下ろす。
 こうして眠っていると、普段の鋭い表情も身を潜め、どこか可愛らしくある。

「…貴方はいま、どんな夢を見ているのですか―――」

 そのやや色素が薄く茶にも見える黒髪をそっと撫でた。









 ―――始まりの記憶、それはもう劣化し風化し色褪せて、満足に残っていない。
 だが、その感情は同じ感情を抱くことで共感し理解することが出来る。だからこの鮮烈な原初の記憶、守りたい大切な笑顔。
 それだけは色褪せることなく、鮮烈に魂に焼き付いて離れない。

 一度目の俺は、篁家の家訓。「威を翳すべからず、黙して為すのみを以て其を示す也」それを後生大事に抱え、国際共同開発計画の経験で左に寄った彼女に対し事あるごとに反発をしていた事だけは覚えている。

 彼女とはあらゆる面で対立し、その家訓は篁が武具職人で在ったころのみに許された甘えだと断じた。
 ――その思想は今回の俺も大して変わらない。篁の家訓と左翼的な思想は不愉快で危機感すら抱く。どう考えても被虐思考(マゾリズム)にしか感じられない。
 ……だが、
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