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立派な魔法使い 偉大な悪魔
第一章 『吸血鬼と悪魔』
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まさにエヴァンジェリンの神経を逆なでするような笑みだ。
 おもむろにダンテが片手を掲げる。それを見たエヴァンジェリンがとっさに後ろへ跳んだ。ダンテに突き刺している断罪の剣を手から切り離し、新たに剣を精製する。ダンテの手には、屋根に刺さっていたリベリオンが戻っていた。
 瞬間、二人は動いていた。まさしく一瞬の事だった。

「……なぜ生きている? 並の魔物では耐えられんはずだ」

 エヴァンジェリンは鋭い眼光を放つ。

「なに、ちょっと体が丈夫なだけさ」

 しかしダンテは相変わらず笑みを浮かべている。その笑みのすぐ下。ダンテの首元には断罪の剣が、エヴァンジェリンの首元にはリベリオンが突き立てられていた。互いに皮一枚。寸前のところで刃は止まっていた。

「それよりもどうする、まだやるか? 吸血鬼のお嬢ちゃん」

 ダンテの言葉でエヴァンジェリンの視線が更に鋭くなる。先ほどまでの激しい剣戟とはまた違った、全身を刺すような空気。常人なら意識が吹っ飛んでしまうようプレッシャーが、たった数秒の間広がる。
 その無言の戦いを、ふいに破ったのはエヴァンジェリンだった。彼女は舌打ちをするとダンテの首元から断罪の剣を離した。ダンテもそれに習いリベリオンを引いた。それを合図にしたかのように、ダンテの腹を貫いていた断罪の剣が音を立てて砕け散った。

「もちろん止めを刺すまでだ」

 そこで言葉を切ると、エヴァンジェリンは右腕を振った。右腕から断罪の剣が離れ、離れた剣がダンテの首をスレスレのところを通り抜ける。
 断罪の剣は少し離れたところにいた召喚魔の一体の眉間に突き刺さった。ダンテが振り返ると、召喚魔が断末魔を上げながらみるみる蒸発し、周囲の召喚魔が凍結してゆくのが見えた。

「……と言いたいところだが、今はあの雑魚どもを蹴散らすのが先だ。鬱陶しい事この上ない。貴様以上にな」

 エヴァンジェリンの両手が、再び冷気を纏う。相手はダンテではなく、麻帆良学園の空を覆い地上を跋扈する無数の召喚魔である。どうやら凄まじい速度で次々に召喚されているようだ。

「俺としてもそっちの方がありがたいね。嬢ちゃんとやり合う理由は無いしな」

  ダンテが同意する。なぜなら彼としては悪魔ではないエヴァンジェリンと戦う理由はないし、世界樹へ向けて進んでいた召喚魔の群れから一部が――それでもか なりの数だが――迫っていたからだ。さながら黒い波のようである。そして召喚魔以外の魔の気配が辺りに立ち込め始めたからだ。

「心配するな、こいつらが片付いたら相手をしてやろう」

 エヴァンジェリンが呪文を唱え始める。

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック『来たれ、氷精、闇の精。闇を従え吹雪け常夜の氷雪』」

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