第一章 『吸血鬼と悪魔』
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や壁には大きな穴が出来ていた。リ ベリオンには微量の魔力が残っているようで、僅かに刀身に赤い光とスパークが確認できた。それをダンテは、血をふるうように軽く振って魔力をふるい落とした。
そしてダンテのすぐ近く。そこには瞬動で間合いを詰めたエヴァンジェリンがいた。冷たく輝く剣が迫る。再びリベリオンと断罪の剣が、大きな音をたててぶつかる。今度は弾かれず、競り合った。
「結界にかかったときの貴様の魔力や力は、たいしたものではなかった。あれくらいは掃いて捨てるほどいる」
激しさを増す競り合いの中、エヴァンジェリンが話し掛ける。リベリオンと断罪の剣からは、不快な音が絶えず鳴っている。二人のあまりの力に、足場となっている建物を押しつぶしていく。
「だが今の魔力を飛ばしたあの攻撃だ。あの瞬間、貴様の魔力が変わった。たしかに、数瞬だけ魔力の質を変え爆発的に増やすことも出来る。しかし貴様の場合、違うんだよ、質も、気配も! あれは人間の出すものではない、魔族のものだ!」
エヴァンジェリンが語気を強め、同時に競り合いも彼女が圧倒し始める。
「もう一度聞こう。さぁ、貴様は何者だ!」
ダンテは顔を伏せていた。銀色の髪に隠れて、表情は伺えない。彼の顔に浮かぶのは苦痛だろうか、それとも――。
「ふん。答える気はないか」
冷たい笑みを浮かべたエヴァンジェリンは一瞬だけ力を抜き、直ぐに力の向きを上へと変えた。ダンテは一瞬判断が遅れる。その一瞬が結果を変えた。
断罪の剣がリベリオンを上へと弾き、ダンテの手からリベリオンが離れる。上空へ弾かれたリベリオンは、くるくると回りながら落ちていく。その刀身には、ダンテが断罪の剣により貫かれる姿が映っていた。
ダンテの口から血が溢れる。鮮やかな赤い筋が口角からつたい落ちていく。しかし刃が突き刺さっている腹からの出血はなかった。それは断罪の剣が帯びる極低温によって、刃の周りの体組織が局地的に凍りついていたためである。
血を吐くダンテに構わずエヴァンジェリンは断罪の剣を更に押し込む。比例するようにダンテの吐血量が更に増した。
エヴァンジェリンは決着がついたと確信した。断罪の剣は対象を蒸発させる。その例にない物質もあることはあるが、それはあくまでも例外。生物ならばほぼ存在しないに等しい。
つまり彼は間もなく蒸発する運命にある、とエヴァンジェリンは考えていた。
「やるじゃないか嬢ちゃん。一本取られるとは思ってなかったぜ」
しかしエヴァンジェリンの考えを裏切る声が響いた。その声はまさに軽快で、楽しそうな声だった。思わず顔を上げたエヴァンジェリンの瞳孔は僅かに広がっていた。そしてその視線の先にあるダンテの顔には、苦痛はおろか汗一つなかった。むしろ皮肉るような笑みを浮かべている。
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