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戦国異伝
第百九十四話 長篠城の奮戦その三

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「徳川殿は再び殿にあえなく敗れるわ」
「そしてこの城にも来られぬというのか」
「そうじゃ」
 まさにその通りだというのだ。
「だからじゃ、降れ」
「我等に降れというか」
「奥平殿、御主の命も城の者達の命も助ける」
 その全員をというのだ。
「そして武田の下で武勲を挙げられよ」
「笑止、殿が敗れることは有り得ぬ」
「三方ヶ原でのことは何じゃ」
「二度敗れる様な方ではないということじゃ」
 馬場に対してもだ、奥平は言い切ってみせた。
「決してな」
「では降らぬか」
「無論、ここで殿をお待ちする」
 断固とした口調での言葉だった。
「それが我等の考えじゃ」
「そうか、わかった」 
 馬場も奥平の言葉に心の中で感銘を受けた、しかし敵同士である為今はそれを顔に出さなかった。そうしてだった。
 そのうえでだ、こう言うのだった。
「では次に攻める時にじゃ」
「どうするというか」
「首を洗っておられよ」
 これが馬場の今の言葉だった。
「御主の首必ず挙げてみせる」
「その言葉そっくりそのまま貴殿に返そう」
「わしの首を取るというのか」
「このわしがな」
 こう馬場に返し己の意気を見せる、そしてだった。
 奥平は櫓で仁王立ちを続けていた、その手には弓矢がある。馬場はその彼を見据えたまま周りの者達に言った。
「見事よのう」
「はい、敵にするにはです」
「惜しい者です」
 周りの者達も言うのだった。
「あの者、まことに」
「見事な漢です」
「家康公はよき家臣をお持ちじゃ」
 こうまで言うのだった。
「あの者にしてもな」
「そして他の家臣にしても」
「実に」
「それ故に殿も欲しいと言われるのじゃな」
 信長、謙信だけでなく家康もなのだ。信玄は己の家臣に欲しているのだ。
「あれ程度の者を家臣としている御仁だからこそ」
「ですな、しかし」
「長篠の城は」
「やはり攻められぬ」
 これが馬場の断だった。
「だからな」
「このまま、ですな」
「城は囲んだままで」
「もうすぐ殿から命が来る」 
 それはもうわかっていた、馬場にも。
「それを受けてわしはな」
「はい、戦にですな」
「行かれますな」
「そうする」
 まさにというのだ。
「そしてじゃ」
「その戦において」
「徳川を」
「そして織田もな」
 信長もというのだ。
「そうすることになる」
「それでは、ですな」
「殿からお言葉が来れば」
「行くぞ、抑えの者を残してな」
 そうしてと言ってだ、そのうえでだった。
 馬場は奥平が降らぬと言っても攻めはしなかった、様子を見ていた。そして彼が読んでいた通りだった。
 早馬が来た、その彼が伝えて来た。
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