第百九十四話 長篠城の奮戦その一
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第百九十四話 長篠城の奮戦
馬場が率いる武田の別働隊は長篠城を囲んでいた、その攻めはまさに火の如しだった。
鉄砲が容赦なく撃ち込まれ兵達が迫る、だがその武田の兵達を。
奥平は自ら刀を手にして敵と戦いだ、こう兵達に言っていた。
「怯むな!殿は必ず来られる!」
「だからですな!」
「ここは」
「そうじゃ、耐えよ!」
耐えてそうして、というのだ。
「この城を守り抜くのじゃ」
「そうですな、殿は来られます」
「あの方は」
兵達も家康についてはこう言うのだった。
「殿は律儀で情け深い方です」
「あの方が我等を見捨てる筈がありませぬ」
「今まさにこちらに向かって来られていますな」
「その頃ですな」
「その通りじゃ、殿は我等を見捨てられることはない」
奥平のこの言葉は兵達への励ましではない、確信である。
家康は必ず来る、それで言うのだ。
「今必死にこっちに来られておられるわ」
「それでは、ですな」
「まだ少し」
「そうじゃ、堪えてじゃ」
そして、というのだ。
「殿をお迎えするぞ」
「ですな、殿と共に祝いましょうぞ」
「我等の勝ちを」
「武田との戦に勝ったことを祝いましょう」
「必ずや」
「ではじゃ、よいな」
奥平は兵達にあらためて言った。
「この度はな」
「はい、このまま」
「戦いですな」
「そうしてそのうえで」
「我等の強さも武田に見せてやりましょう」
「徳川の強さを」
「三河武士は敵に決して背を見せぬ」
こうも言う奥平だった。
「ではよいな」
「はい、それでは」
「我等はこのまま戦いましょうぞ」
「臆することなく」
兵達の士気は落ちていなかった、そしてだった。
彼等は数に勝りしかも強さも天下に知られている武田の者達に臆することなく戦い続けた、その彼等を見てだった。
馬場は城を見てだ、腕を組み旗本達に言った。
「やはり強いのう」
「はい、三河の兵達も随分と」
旗本達もこう答える。
「まさに鬼神です」
「恐ろしいまでの強さです」
「全くじゃ」
馬場は唸る様に言った。
「下手に攻めても兵が死ぬだけじゃ」
「ではここは」
「どうされますか」
「殿の仰る通り無理には攻めぬ方がよいな」
これが馬場の断だった。
「だからじゃ」
「ここは、ですか」
「あらためて」
「うむ、攻めるのを止めよ」
こう軍に告げた。
「囲みそうしてじゃ」
「そのうえで、ですな」
「時が来れば」
「ここに抑えの兵を置き殿と合流するぞ」
信玄、彼とというのだ。
「よいな」
「では我等も」
「やがては」
「そうじゃ、ここに置く兵は多くはない」
あくまで抑え程度しか置かないというのだ。
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