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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第109話 蓮の花
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 それに、この名前を名乗らなければ貴方に出会えないような気がした。
 この場所に彼女が居ると言う事は、今生の彼女はかなり名の有る仙人の手による人工生命体那托(なた)。そのような存在が偶然、前世で俺と縁のあった魂を自ら造り出した人工生命体に宿す訳はない。彼女がここに現れたのは必然。
 そして、彼女が言うように、今彼女が名乗っている神代万結と言う名前は俺が付けてやった名前。

 俺が初めて彼女に出会った時の彼女は、個体番号のみで呼ばれて居た存在。蓮の花の精の四体目。それが彼女を示す名前だった。其処から連れ出した……ぶっちゃけて言って仕舞えば強奪した後に呼び名が必要と成った為に俺が適当に付けた偽名が、今の彼女が名乗っている神代万結と言う名前であった。
 その時の――。彼女を救い出した時の俺は、残念ながら魔法とは縁遠い存在。当然、名前を付けると言う行いの()()()意味を知らなかった。故に、簡単に名前を与えるなどと言う事が出来た。

 そう、これは所謂、名付けの魔法。俺がウカツにも彼女に名前を与えるような真似を行った為に、彼女の転生に影響を与えた可能性もゼロではない。その時の彼女は人工生命体に宿った幼い魂。その魂に最初に道を与えたのが俺だったのですから。
 少しの後悔にも似た感情。ただ……。

「そうか。すまなんだな、こんなくだらない質問をして仕舞って」

 ただ、多少の方向性を与えたとしても、その道を拒否する自由は彼女にも与えられていたはず。それを拒否する事もなく、俺に近い道を歩む事を選んだのは彼女自身。その彼女の考えを俺が否定する事は出来ない。
 カーテン越しの弱い光を背負った彼女が、僅かに首を上下させた。そして、まるでその余韻を確かめるかのように俺を真っ直ぐに見つめ返した。
 夢の世界の彼女とは違う紅玉の瞳が……。

「そうしたら――」

 カーテンに時折映る鳥の影。感じる風の気により、外界は平凡な土曜の始まりが営まれている事は理解出来る。しかし、同時に、魔法と科学の力によって外界から隔離されたこの部屋は、通常の世界とは違った時間の流れの中に存在している事が理解出来た。
 そう。それはまるで薄い膜で覆われたかのような静寂の空間。本来なら決して出会う事のなかった二人の逢瀬の時。その中で微かに感じる彼女の吐息と、少し早くなった俺の鼓動が緩やかに流れて行く時間を感じさせていた。

「ただいま、万結」


☆★☆★☆


 高く響く金属音。
 地を這うような鋭い打球が、三遊間の丁度真ん中辺りへと奔る。

 その打球に素早く反応するショート。流れるような身のこなし。身体の正面では取らず、バックハンドで(さば)いた打球を踏ん張ってセカンドへと送球。邪魔にならないように束ねた長い髪の毛
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