第6章 流されて異界
第109話 蓮の花
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う少女。長いまつ毛。形の良い……書道の名人が一筆ですぅっと引いたような形の良い鼻梁。あごから首筋に流れるようなライン。確かに、日なたで大輪の花を咲かせる艶やかさはない。しかし、日蔭でひっそりと咲く花の美しさはある。そう言う少女。
……もっとも、今は野暮ったい学校指定の体操服を着ている状態なのですが。
「俺を起こしに来てくれたんやろう?」
起こしに来た、と言う割には不自然な行動……。その紅玉の瞳に俺を真っ直ぐに映す彼女の手の中には、俺が読み掛けて居た小説が存在して居たのですが、それでも一応、そう問い掛ける俺。
窓の向こうから差し込んで来る朝日がカーテンを照らす。
明るい……とは言えない。しかし、暗いとも言えない室内。ふたりの距離は一メートル程度。その向こう側から静かに俺を見つめていた彼女が……微かに首肯いた。
矢張り、まったく変わる事のない透明な表情。その感情の動きさえ感じさせる事のない紅玉の瞳に、ただただ俺を映し出すのみ。
その様子も有希やタバサに……。
いや、俺が知っている無機質な反応を示す少女で、最初に絆を結んだ相手と言うのは彼女の魂を持った人物の可能性も有りますか。つまり、似ているのは有希やタバサの方であって、オリジナルは彼女の方。
まして、タバサは無機質で独特のペシミズムを持った少女を演じて居る少女。彼女がそう言う少女を演じようと思った最初が、前世の記憶に残って居た万結の可能性も……。
あの時の彼女は確かにこう言いましたから。私もメガネを掛けてみようかな、と……。
もっともあの頃の彼女……今生でタバサと名乗っている少女が掛けていたのは、記憶が確かならば度の入って居ないフィンチ型メガネ。鼻の先に軽く固定するだけの、ファッションとしてだけ使用するメガネだったハズなのですが。
今の彼女とは外見年齢的に四歳は違う、しかし、その面影のある少女の事を思い浮かべる俺。
そして、もうひとつ。
「なぁ、万結」
軽い郷愁を誘うかのような懐かしい思い出から、もう少し重い内容に思考をシフトする俺。但し、これも内容的に言うと、微かな郷愁を誘う思い出と成る物。
……いや、むしろ彼女に取ってそれは、良い思い出と成る物だったのかも知れない。
複雑な俺の想い。そんな俺に対して、素直に首肯いて答えを返してくれる万結。普段通りの動いたとは思えない微かな気配のみで。
「何で名前を変えなかった?」
新しい。今生での親……造物主がくれた本当の名前は真名に関係する可能性が高いので名乗れないかも知れない。しかし、同時に呼び名を与えられる可能性は高い。
そもそも、今の彼女の名前。神代万結と言う名前は……。
「この名前は貴方から貰った大切な名前。この名前以外を名乗る心算はない」
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