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蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第109話 蓮の花
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、良い思い出。これは感傷……なのか?
 彼女の瞳が示す物は相変わらず無。更に、表情も動く事はなく、心も平静。ただ、最初に一目見た瞬間に感じた虚ろな洞に等しい無などではなく、静謐と言う雰囲気。
 但し、表面上ではなく、心の奥深くから発せられて居るのは――心の奥深くが、何かに因って動かされているのは間違いなく判る状態。

 短い。時間にしては非常に短い視線の交換。そして、それはおそらく魂の交感。
 その後、

「あなたは誰?」


☆★☆★☆


 真新しい畳の香りに混じる懐かしい……。本当に懐かしい彼女の香り。
 この香りは花の香り。甘い匂いでありながら、しつこくはない。女性に似合う……とは思うけど、男性が発して居たとしてもそう不快ではない。但し、有希が発して居るシャンプーやリンスなどの外的な要因から発生する香りなどではなく、彼女自身が発して居る香り。

 この香りは――この香りは多分、(はす)

 ゆっくりと覚醒して行く過程。未だ目さえ開けていない段階で、何故か傍に居るのが有希ではなく、彼女の方だと確信している俺。
 目蓋の裏側には淡く光を感じる。この感覚なら、今の時刻は普段の朝の目覚めと同じぐらいの時間帯だと思う。

 尚、普段は施していない簡易の施錠を行う術式を行使してから寝た以上、現在のこの部屋に侵入出来るのはある一定以上の術者のみ。……と言うか、ハルヒにさえ侵入されなかったら、その他の連中は寝て居る俺にイタズラをしようとするとも思えないので……。

 何と言うか、面倒なのだが、それでも不快ではない思考を回らせながらも、わざと勿体を付けるように目蓋を開ける俺。
 香りと音。それに、気を感じる事により得て居た情報の他に、その瞬間から視覚による情報が加わる。
 薄い光に支配された室内。
 カーテンの向こう側から差し込んで来る冬の陽。落ち着いた雰囲気の和室。見慣れた天井。未だ灯される事のない蛍光灯。
 間違いなく彼女が存在して居るはずなのに、何故か未だ灯されていない蛍光灯……。

「おはよう」

 俺が目覚めた事に気付いた――いや、そんな事は目を開ける前から彼女なら気付いていたでしょう。おそらく、俺が目を開けるタイミングを待って、先に自分の方から声を掛けて来たのだと思います。
 現実の中でも。夢の中でも変わらない淡々とした透明な声で……。

「おはようさん」

 上半身だけを起こし、彼女の整い過ぎた容貌を一度、ゆっくりと見つめた後に、そう答えを返す俺。
 薄い光の中に膝を揃えた形で正座する彼女。木の地肌を模した柱と天井板。装飾品の欠片すら存在しない室内の中心に存在する彼女の姿が、既に一枚の絵の如き雰囲気がある。
 そう、整い過ぎた容貌。可愛いと言う表現よりは美人と言う表現が似合
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